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「全ての人にお金」で脱貧困? ベーシックインカム 欧州で来年から社会実験

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転載:東京新聞:http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201609/CK2016090602000165.html 2016年9月6日

 貧困をなくすために政府がすべての人に生活に最低限必要なお金を配る「ベーシックインカム」(BI、基礎所得保障)制度の導入に向け、欧州がかじを切り始めた。スイスはことし六月、世界初の国民投票を実施、フィンランドやオランダでは来年から社会実験が始まる。背景にあるのは格差拡大といった社会保障制度の行き詰まりだ。

◆フィンランド 25~58歳に月7万円程度

 フィンランドのユハ・シピラ首相は昨年五月、国レベルでBIの社会実験を試行すると表明した。二〇一七年中に始め、二年間実施。過去にカナダの自治体で試みはあったが、制度導入が実現すれば世界初だ。

 BIは無条件に一律に支給されるため、社会保障制度をスリム化し、行政コスト削減が期待される。昨年十月から政府の調査チームが実験手法の研究を始め、月五百五十~六百ユーロ(六万四千~七万円程度)の給付を検討。二十五~五十八歳の約七千人を選び、一九年に結果を分析する。

 調査チームの代表で、社会保険庁のオッリ・カンガス氏によると、大きな目的の一つは「貧困のわな」の解消だ。公的扶助の受給者が働き始めると、援助が削られるため一定の給与がないと所得は増えず、就労に後ろ向きになる。給与を得ても減額されないBIは、働けば所得が上乗せされるため「働く意欲を喚起する解決策になるのではないか」と語る。

 貧困層だけでなく起業への挑戦や、柔軟な働き方も期待できる。経済低迷が長引き、失業率が10%前後で推移していることも検討の背景にある。

 カンガス氏によると、世論調査ではBI導入の賛成意見は70%に上るというが、批判も根強い。

 首都ヘルシンキ在住の調理員メルヤ・レヒトさん(52)は「絶対に反対です」。制度の簡素化は歓迎だが、「なぜ富裕層にも一律に支給されないといけないのか。一体誰がその負担をするのでしょう。働くことに積極的になるどころか、もっと受け身になる人が増える」と疑問を呈する。

◆オランダ 5条件に分け就労分析

 オランダでは、約20の自治体がBIの社会実験を計画。最終的には政府の認可が必要だが、17年にも始まる見通しだ。BI議論を主導してきた自治体の一つで国内第4の都市ユトレヒトは、500人規模での実施を計画。対象を公的扶助の受給者に限る点では、フィンランドとは異なる。

 給付はBIの理念通り、無条件。職探しの努力といった条件を課さないことで、受給を終えて長期の仕事に就けるかを調べる。2年間、少ない条件付きも含めた5グループに分け、月1000ユーロ(11万7000円)程度の給付を予定。職探しの意欲、実際の就労にどんな違いが生じるかを分析する。

 担当者は「福祉制度はシンプルであるべきだ。実験することで、伝統的な仕事がなくなり、新しい職業が生まれる将来の経済・雇用環境の変化にも備えられる」と説明する。

 スイスは6月、BI導入を巡り世界初の国民投票を実施したが、76.9%の反対で否決された。政府は、大人1人月2500スイス・フラン(27万円)、子ども月625スイス・フラン程度の給付に膨大な予算が必要だとして反対していた。ただ、推進派の市民は「ゼロから始めて23%の賛成を得た。議論を広める目的は達成した」と強調する。

<ベーシックインカム> 働く能力や意欲、収入、資産にかかわらず、個人に平等に基礎所得を支給する構想。誰もが対象となり受給へのちゅうちょが生じにくいほか、年金や生活保護、雇用保険などの統合や簡素化ができる。


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