ハイテク化による環境制御や多段式システムだけでは成功できない
Posted by イノプレックス innoplex in 海外市場, 注目記事 on 06 14th, 2013 | no responses
政府は6月12日、産業競争力会議を開き、成長戦略を決定した。成長戦略は金融緩和、財政出動と並ぶ安倍政権の経済政策の「第3の矢」といわれている。例えば、農業分野では「農地中間管理機構」を整備して、農地集約を加速する方針を示し、現状では4500億円にとどまる農林水産物の輸出額を2020年には1兆円に倍増させることを発表した。
大規模な農業生産事例として、林芳正 農林水産大臣は、5月31日にオランダを訪問し、オランダ国内最大規模の野菜栽培の集積地「グリーンポート・ウェストラント」、同地区の施設園芸業者、ワーヘニンゲン大学研究センターなどを視察した(参考:オランダ大使館ウェブサイトより)。
日本の九州とほぼ同じくらいの国土面積しかないオランダが、米国に次いで世界第2位の農産物輸出国(8兆円弱)という地位を確立していることから、その成功要因を知るための訪問であるだろう。
<写真:Greenport Holland Internationalより>
オランダの施設園芸事情については、また別の機会にお伝えするとして、現在ではTPPへの参加など、日本による国際競争力をいかに高めていくのか、こうした議論が繰り返されている一方で、世界における「都市間競争」も激化している。
そもそも、地方や各都市によって、人々の年齢構成・所得・ライフスタイル・価値観などは異なり、その地域が抱えている課題も様々である。地域によって宗教が異なる国もあり、政府が全体的な方向性を示すことはできても、各地域が抱える細かい課題を解決することは現実的には不可能であるだろう。
そこで、世界の各都市では、魅力のある町にして人口流出を抑えながら、逆に外から幅広い世代の人々を取り組むため、様々な施策を講じている。参考データを示すと、森記念財団都市戦略研究所による2012年世界都市の総合力ランキングでは、ロンドン、ニューヨーク、パリ、に続いて東京は4位となっているが、5位にはシンガポール、6位にはソウル、とアジア諸国が続いている。
例えば、シンガポールのように、デザインに優れた高層ビル、大型リゾート施設、ホテル・カジノや世界中のビジネスマンが集まる国際展示場などを集約させ、魅力ある都市づくりにする方法もあるが、その他のアイデアとして「都市型農業」や「環境志向型アグリビルディング(BIA:building integrated agriculture)」といったテーマに注目している都市もあり、今回は「米国のシカゴ」の例をご紹介したい。
※ BIAとは、低炭素・省エネ実現のため、エコビルディングの設計に農業分野を融合させたものである。最も分かりやすい例では、屋上緑化もBIAの一つである。近年では、屋上や室内に環境制御を行う温室ハウスや植物工場を導入する事例が増えており、究極的にはVeritical Farm(垂直農場,参考記事)という分野も含まれる。
都市型農業を積極的に推進しているシカゴでは、2004年から都市部エリアにおける農作物や食料生産に関する法律の見直しを開始し、2010年には都市部エリアでの水耕栽培やアクアポニクス施設が自由に運営できるように、ライセンス許可制として認める改正法案が可決・施行されている。(アクアポニクスについては、こちらの記事をご参照下さい)
都市エリアでの農作物の生産・販売に関する規制緩和を行った結果、シカゴでは、多くの民間企業やNPO組織、さらには個人(一般消費者)が農業ビジネスへの参入を果たしている。欧米における主要な都市では、個人が自家消費以上の農作物を生産し、生鮮食品や加工品を周辺のファーマーズマーケット等で販売・所得を得ることを制限・禁止している所も多い。
弊社による調査によると、室内栽培分野に絞ったアクアポニクスや完全人工光型植物工場への新規参入数(シカゴのみ)は、ここ3年間で10社ほどに増加しており、試験栽培ができるインキュベーション施設もオープンしている。
また今年に入っての大きなニュースとして、日産1万株(フリルレタス換算)規模の完全人工光型植物工場も稼働を始めており、都市型農業やBIA市場としては、注目されている都市の一つになっている。
<写真:日産1万株規模の完全人工光型植物工場/ベビーリーフを栽培>