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イナンヌが語るアヌ一族の物語ー20

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2013年03月03日

ニビル星のトゥルバの木



エリキシル(特効薬)の力を借りることは、ニビルの女神たちにとってごく普通のことです。
その力を借りて、男たちを誘惑するのです。
これに関しては、私たちニビル星人の女たちには、まったく悪意のかけらもなく、
ただ、無邪気な戯れにすぎません。
けれども、度が過ぎるのだけは許されないのです。
だから、あのときのエンリルのように、
レイプは私たちにとってどれほどの重罪であるか、そのころからとわれていたのです。
地球の男性のみなさんにもぜひこれをしっかりと理解してもらいたいのです

イナンナは語る

 ニンマーは、デルムンの丘に建てた地球初の病院で、金の発掘現場で怪我を負ったアヌンナキたちを熱心に看病した。その上彼女は、アヌンナキらが地球という異なる環境の中でどうやって生き延びていくかという研究に力を注いだ。彼らが地球環境に馴染むことができるように、ニンマーはさまざまな薬草を調合しては、彼らに与える地上初の薬剤師であることはたしかである。

 そのころの地球はまだ、生まれたばかりで、さまざまな危険が満ちていた。すっぽりと宇宙塵(ダスト)に包まれた星だった。

ニンマーは、さっそく地球の大気圏を調べた。それからその星の住民のDNAをニンマーは、さっそく地球の大気圏を調べた。それからその星の住民のDNAを研究した。彼女もエンキに負けず、遺伝子学にかけてはすばらしい博士であり、そんな姿の女神をあまりだれも想像できない。

 彼女の遺伝子に関する詳しい発見があったために、アヌンナキはニビル星以外の星で暮らせることができたといっても決しておおげさではない。ニンマーはまた、種(スピーシ)がどのようにして進化していくかに関心があった。さらにいえばニンマー(ニンフルサグ)は、アヌ一族のDNAに秘められた謎を明かすことに心を捧げた。

 ニビル星から地球に移住するアヌンナキがニビルにいる者と同じように、どうしたら若々しさを保つことができるか、それについての研究に彼女は捧げていた。

 ニンマーが作ったエリキシル(特効薬)は、金の発掘現場で過酷な肉体労働を課せられているアヌンナキに配給された。それは、地球特有の病原菌やウイルスに打ち勝つことができるように、ニビルから取り寄せた薬草で配合されたものだった。

 その薬は、エンキから特別にもらったme(メ)の攪拌機(かくはんき)を使ってニンマーは作った。このエリキシル(特効薬)を、ニンマーはいつも腰にかけているポーチの中にしまっておいた。いざというときには、それを必要とする者に与えた。エンキは、その攪拌機(かくはんき)のme(メ) 外にも、愛する妹のために幾つかのme(メ)をニンマーに贈ったという噂は、アヌンナキの間でも生き続けている。

 さて、そのニンマーが作る特効薬のもとは、ニビル星のトゥルバという木である。地球と同じようにニビルにも木がある。その木からは赤いリンゴのような実がなり、その果実には毒がある。よって彼らはそれを食べない。しかし、その「トゥルバの樹」は、季節をとわずその大きな赤い見事な花を咲かせている。だからニビル星ではそれを観賞し、楽む樹としている。


 トゥルバは、大きな大木に森の中で育つ。その太い幹には、たいてい濃い紫色のツタが周囲には絡んでいる。それがトゥルバの樹の赤い花の色と妙につり合いを見せ、なんともいえない調和を醸し出すので、ニビル星人はトゥルバの樹を好み、森に出る。しかし、トゥルバは、ニビル星の森ならどこにでも見つかる、また丈夫に生息している。

 ニンマーは、このトゥルバの実から搾った汁を発酵させ、そして、ツタの幹から採れる樹液を混ぜ合わせた。その混合物をあの攪拌機(かくはんき)にかけると、ニンマーのご自慢のエリキシル(特効薬)が完成する。

 その薬は摂取する量によって、さまざま効果が現れた。量によっては幻覚を起こさせることもある。意識を失わせることもできる薬なので、ニンマーはほんの少しでも量を間違えないように常に気をつけていた。

 このエリキシル(特効薬)によって、深い眠りから永久に目覚められなくなることもある。けれどもそれは、大抵の場合、この上ないほどの幸福感を伴う幻想夢に次から次へと誘う、きわめて危険な薬ともなりうる。

 そんなパワフルなエリキシル(特効薬)を、エンリルはニンマーからもらっていたので、それを酒に混ぜて、スドに飲ませてから、強姦してという罪の重さにニンマーは責任も感じていた。

 しかしながらニンマーは、どうしてもエンリルを許すことができなかった。

 (エンリルは、許されない罪を犯した。この事件はきっと宇宙連合のソ・ラーラさまは知るはず。どちらにしても兄のエンリルは裁かれるべきなのです・・・)

                                                     ☆


 個々の自由意志を無視する「強姦(レイプ)」は、プレアデス星やニビル星では堅く禁じられている行為である。それは本来は、地球に移住したアヌンナキも、当然、女の許されない星「ラーム」のイギギたちの間でも同じことで、許されないことなのである。

 やがて文明化とともに地球人にもこの罪の重さは伝えられた。これは宇宙連合に所属する存在たちが定めた、宇宙で統一されている掟であるということを彼らはたしかに知っていた。

 ニンマーはついに、エンリルの卑劣な行為を公にした。それによってエンリルは、裁判にかけられることになった。

 エンリルは自分のヘマは認めたがすでに遅すぎた。

 この事件が公表されると、たちまち普段からエンリルに反感を抱いていたイギギが、騒ぎ出した。わざわざラームから駆けつけてきてその裁判に立ち会った。アヌンナキの指導者も含めて、傍聴席に50名もの裁判にんが並んだ。

 「運命の石板事件」でのアンズに死刑を言い渡したあの七名のアヌンナキたちが前に並んだ。その裁判の結果、エンリルは地球を追放され、操縦士アブガルによってラームに連れていかれた。エンリルはラームの“戻れない土地”といわれている場所に放置された。しかし、操縦士のアブガルは去る前に、エンリルに一言いっておいた。

 「ただ罰するためだけの理由で、王であるあなたを偶然ここに残していくのではありません」

 とただ彼はそういって、またシェムに乗って去っていった。それから数日間、エンリルは、戻れない地を彷徨い歩いた。そして彼はある洞窟に辿りついた。その中で彼は驚くべきものを発見している。

 「おお、なんと、やっと見つけたぞ! これは、あの噂の「恐怖の武器ガンディバじゃないかにちがいない。しかも7機もある」

 明るい声でそう叫んだエンリルは、疲れが吹き飛ぶほど喜んだ。

 7機のガンディバは、エンキが自分の義理の父であるアラルが生きていたころに、特殊運搬用シェムでふたりでラームにニビル~運び込み、その洞くつの中に隠しておいたものである。死刑になったアンズの遺体近くにその洞くつはあった。ラームにある不毛の地の洞窟になら、決して誰にも見つからないだろうとエンキは思ったからだ。

                                                       ☆

 首都ニップールでは、エンリルの二回目の裁判が開かれた。本人の出席なしにスドの証言だけでそれは執り行われた。内容はいたってシンプルな裁判となった。

 「スド、おまえは、エンリルを配偶者として認めるか?」

 裁判官の質問はこれだけだった。いうまでもなく、背後にはアヌの計らいがあったからで、スドは少しためらったが、「「はい」と答えた。

 こうして、ニビルの若い女神によってエンリルは救われ、早速、迎えの者たちがラームに迎えに向った。この裁判の取り決めに従ってエンリルはスドを娶ると約束させられた。エンリルはレバノン杉に囲まれたニップールの自分の城に彼女を迎え入れた。

 エンリルは総司令官である自分の面目を取り戻すために、派手な結婚式を開いた。そしてその披露宴では、親族だけでなく、もちろん大勢のアヌンナキの労働者たちも招待した。エンキとニンマーは、スドに豪華な金製の記章を贈呈した。

 そしてその日からスドはエンリルの王妃として、「ニンリル」“総司令官のレディー”とよばれるようになった。

 スドはやっと、今までの苦しみから解放された。果たしてこれは、最初から彼女の陰謀だったのか、それとも、純粋無垢な女神に運ばれてきた幸運だったかもしれない。

 このようなかたちでアヌンナキの主体の神さまであるエンリルとニンリルは結ばれた。

 そしてあの時スドが辱めを受けて身ごもった子が、イナンナの父ナンナールであった。彼は、初めて地球で誕生したアヌンナキの皇子だった。

 彼はエンリルとニンマーが生んだニヌルタとは、母違いの弟になる。

 ニヌルタは、父とニンリルが結ばれる宴の隅のほうで複雑な気持ちになり、遠くから幼い弟のナンナールを見つめていた。

次回は「エンキの誘惑」


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