2015/10/15(木) 9:34配信
Noy Thrupkaew
動画:https://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20151015-00002275-ted&utm_source=taboola&utm_medium=exchange
翻訳10年ほど前 ある大変な時期があって 私はセラピーを受けることにしました 数ヶ月ほど通ったある日 担当している療法士が 「3歳まであなたを育てたのは一体だれ?」と聞くんです 変だなと思いながらも 「両親です」と答えました すると彼女は「違うんじゃないかしら」 と言います 「もしそうなら 私たちが取り組んでいる問題は 今より はるかに複雑なはずよ」
冗談に付き合わされてるようでしたが 彼女が本気なのがわかりました 最初に彼女の元に通い始めた時に グループの中でも 一番面白い人物であろうとしていて よく冗談ばかり言っていたんですが 彼女はすぐさま悟ったような顔で どんな冗談を言っても 私を見てこれしか言わないんです 「わかるわ 本当はつらいのね」 (笑) ひどいものでした
ようやく私も真剣になって 両親に聞いてみました 3歳まで私を育てたのは本当は誰なの? すると驚いたことに 彼らが言うには 私の最初の育ての親は 遠い親戚だったんです 私がオバチャンと呼んでいた人でした
彼女のことはとてもはっきり覚えていて 3歳よりずいぶん後まで 共に人生を過ごしたように感じていました 彼女に抱き上げられる時に 彼女の長く 豊かな髪が カーテンのように私の周りに来ることや タイ南部のなまり混じりの優しい声 彼女の後をついてまわったこと トイレの中まで付いて行きましたし 買い物にもついて回りました 彼女のことを愛していましたが 子どもだったのでやり過ぎでした その頃はまだ 愛情が別れをも伴うことが 理解できなかったのです
でも 最も鮮烈で よく覚えている オバチャンの記憶は 人生で最初の記憶のひとつでもあります 彼女が私の家族に殴られ 叩かれている記憶です 私は「やめてやめて!」と 泣き叫んでいたのを思い出します それが起こる度に 私は泣き叫んでいました ささいな理由でした 友達と出かけたいと言っただとか ちょっと遅れたとかです 私があんまり泣き叫ぶので そのうち彼女は 扉の向こう側で殴られるようになりました
その激しさは増し 結局 彼女は逃げていってしまったのです 成人してから知ったのですが タイから呼び寄せられた当時 彼女はまだ19歳で 私の子守をするため 観光ビザでアメリカに渡って来たのです 不本意ながら しばらくイリノイで働いた後 タイに戻りました その後 私はバンコクの政治集会で 彼女に再会を果たしました 幼いころと同じように 彼女についてまわったあと 今度は別れも受け入れ 電話をすると約束しました でも 電話はしませんでした なぜなら 彼女が 私にとってどんな意味を持つのか すなわち 私自身の最善の部分はおそらく 彼女によって育まれたのだと 伝えることができても 私の子守のために彼女が体験したことに対する 私の罪悪感や恥ずかしさ、そして怒りは大きく 「ごめんなさい」という一言は 大海の一滴にも満たないのです それらを口にした途端 永久に泣き続けることになるのを恐れたからです なぜなら 彼女は私を救ってくれたのに 私は彼女を救っていないから
私はジャーナリストとして 人身売買について調査し 記事を書いています もう8年以上になりますが この個人的体験をもちだすようになったのは ごく最近になってからのことです 彼女との間の重い断絶は 正に 人身売買に対する一般的な理解を象徴していると思えたのです 人身売買は私達が考えるよりもはるかに 広まり、複雑で、身近なものなのです
私は牢獄や売春所などで 何百人もの被害者や 法的機関 さらにNGOの人々に取材してきました その人身売買に関する取材の結果は 大きく落胆すべきものでした 私達はこの問題を正しく理解することすら できていなかったのです 「人身売買」というと 多くの方は私のオバチャンのような人ではなく 若い女の子や女性が 冷酷な売春斡旋業者によって 暴力で売春を強要されるのを想像するでしょう それは本当に悲劇で しかも実際に起こっていることです でも私が怒りをおぼえるのは そうした現実に起こっている 状況以上のことに対してです
私は職業柄 私達をつなぎとめる言葉のあり方にとても気を使っていて 特に残虐さや暴力 卑猥さを伴う記事のことを 私は「彼女の傷跡を直視する」報道姿勢と読んでいます そのような記事を読むと私達は 人身売買とは 悪い男が無垢な女性に対する 犯罪だと思い込みます でもそれは多分に一面的で 私達の側の告発されるべき 社会的状況を反故にしてしまう それは構造的な不平等であり 貧困であり さらには移民の壁と言った問題です 私達がそのように 人身売買を単なる強制売春だと 思い込んでいるその横で 現実には 人身売買は 私達の毎日の生活に 組み込まれて進行しているのです
事例で説明しましょう 強制売春は人身売買の22%を占めています 10%は国家組織的な強制労働です しかし残りの68%は製造業やサービス業といった 私達の毎日の生活に不可欠な分野や 農作業 家事労働 建設工事といった 分野で働いています すなわち 食料、人の世話と住居です そしてなぜか こうした最も重要な作業に従事する彼らは 今現在 世界でも最も低い賃金で 最も酷使されているのです 人身売買とは 他人に労働を強制するために 暴力と詐欺 あるいは威圧を用いることです 綿花畑やコルタン鉱山のみならず ノルウェイやイギリスの洗車場にも見られます イラクやアフガニスタンの 米軍基地でも発覚していますし
タイの水産業でも発覚しています タイはそうして 世界第一のエビ輸出国となったのです でもその実情 安価で大量のエビの裏側は どうなっていたんでしょう? タイの国軍はブルネイとカンボジアからの移民を 漁船に売り飛ばした罪で告発されました 漁船で働かされた人々は 仕事を間違えたり あるいは病気になると海に棄てられました 待遇の改善を訴えた場合もです そのような漁船が穫った魚を使って エビが育てられ エビは世界の4大小売企業 コストコ テスコ ウォルマート そしてカルフールで販売されるのです
より小さな規模では人身売買はさらに多く 想像もし得ないような場所でも行われています 人身売買業者は若年層に アイスクリームのトラックを運転させたり 男声合唱団のツアーで歌を歌わせています ニュージャージーの有名ヘアサロンでも 発覚した例がありましたが
この事件での周到さは 眼を見張るようなものでした 業者はガーナやトーゴ出身の 若年層の家族を探した上で その家族にこう告げたのです 「お宅のお嬢さんが アメリカで優れた教育を受けられますよ」 その上で業者は米国永住権当選者の 別の人物を探り当て その人物に「国外に出る手助けをしよう」 と持ちかけました 「飛行機のチケットもとるし その上金まで払う あとはこの女の子を 一緒に連れて行ってくれればいい 女の子は妹だとか婚約者だとか言えばいい」 ニュージャージーに着いた途端 女の子は連れ去られ 1日14時間の労働を 毎日5年間強制されました この事件で人身売買業者は 400万ドルを荒稼ぎしました
このことは深刻な問題です 対して私達は何をしたのでしょうか? 主に刑事司法制度に頼ってきました でも人身売買の被害者のほとんどが 貧困層や弱者であることが問題です 移民 有色人種といった人々です 時に性産業に従事させられることもあり そうした人々に対して 刑事司法制度は解決どころか問題そのものとなることが 多々あるのです 取材をし続けバングラデシュからアメリカまで 極めて多くの国々を巡った結果 そうした性産業に従事させられている人々の 20~60%が 過去1年間の間に警察によって 強姦または暴力を受けたという結果がでました 性産業に従事する人々は 人身売買の被害者も含めて お決まりのように 売春の前科が複数回あります そうした犯罪歴があることが 本人が貧困 暴力 売春から抜け出したいと願っても 大きな障害としてのしかかってくるのです 性産業以外の分野でも 待遇の改善を要求して立ち上がることは 国外退去の危険を犯すことです 取材する中でも度々目にしたのが 雇用者が人身売買被害者たちの ストライキを法的に訴えて 脅したり 追放しようとすることに 全く問題がなかったことです 労働者が逃亡に成功したとしてもそれは 多数の不法就労者の1人となる リスクを冒すことであり 気まぐれな査察によって 逮捕される対象となることを意味します
法律は本来 犠牲者を見出し 人身売買業者を起訴するものであるはずですが 現在 世界中に2100万人いると 見積もられている被害者のうち 認められたのは5万人以下という状況です まるで世界中の人口と ロサンゼルスの人口の比率に 似たようなものです 2013年には約5,700件の 有罪判決が降りましたが 労働者の人身売買に関するものは 500件以下でした すべての人身売買のうち 68%が労働者の人身売買であるにも関わらず 有罪判決の10%にも満たないのです
ある専門家は需要と強欲さが出会うところに 人身売買が生まれると述べました そこにもう1つの要素を付け加えたいと思います 人身売買は労働者に対する保護が奪われ 団結権が否定された場において起こるのです 人身売買は何もないのに生じることはなく 劣悪であるべく仕組まれた労働環境において起こるのです こう考えている方もいるでしょう そうはいっても まあ 貧困国とか紛争地域の話だろう と 私はアメリカの話をしているんです その様子をご説明しましょう
私はグローバル・ホライズンと呼ばれる 人身売買組織の調査を長期間行いました そこには何百人もの タイの農民が関わっていました 彼らはアメリカ中に送られました ハワイのパイナップルプランテーションや ワシントン州のリンゴ畑 人手を必要とするあらゆる場所です 3年間の堅実な農作業という約束でしたから ある一定のリスクだけを念頭に 土地を売り 奥さんの宝飾品なども売って このグローバル・ホライズン社への 登録料として数千ドルを支払いました しかし一度アメリカに来て見ると 彼らのパスポートは没収されました 何人かは殴られ あるいは銃を突きつけられました 労働はあまりに過酷で 畑で気絶することもあったということです この事件は私にとって大きな衝撃でした
地元に帰ってから 食料品店をぶらついていた私は 生鮮食品売り場で立ちすくんでしまったのです そこで思い出していたのは グローバル・ホライズンの被害者たちが 取材をする私に毎回決まって出してくれた 豪勢な食事のことでした ある食事の最後に 茎がついたままの 美しいイチゴが出てきました それを手渡しながら彼らは私にこう言いました 「アメリカでは特別な人といる時に こんなイチゴを 食べるんでしょう? 誰があなたのために これを摘んだか分かっていれば もっと美味しいでしょうね」
それから数週間後 私はこの食料品店の中で立ち尽くし その豊かさの感謝を捧げる相手を 全く知らないばかりか どんな境遇にいるのかも 分からないことに気づきました ですからジャーナリストとして 農業について調べ始めたのです 膨大な農場の数に対して 労働監督官が明らかに不足しているとわかりました 栽培者と卸売業者 加工業者 他の業者の間に 幾重にも言葉巧みな否定が 仕組まれていることもわかったのです グローバル・ホライズン社の 被害者たちはアメリカへ 短期労働プログラムとして 連れて来られていました 短期労働プログラムでは 労働者の法的立場が一手に 雇用者の手にゆだねられ なおかつ労働者の団結権が 否定されているのです 注意してほしいのは 私がお話している この農業団体や短期労働プログラムが 現時点では 全く人身売買とされていないことです これらは紛れも無く 法的に認められていることなのです しかし これらはまた 搾取のための土壌ではないでしょうか さらに私が理解を試みるまで これらはすべて私の目から隠されていたのです
こうした問題を突き止めているのは 私だけではありません eBayの創業者である ピエール・オミダイアもまた 世界の慈善家の中で 人身売買に反対している大物の1人です そんな彼にあってすら 期せずして1千億ドル近くを 最悪の労働条件である プランテーションのパイナップル畑に 投資する結果となっていたことが グローバル・ホライズン事件で分かりました このことが判明すると 彼と彼の妻は大きな衝撃を受け かつ恐怖し 事態に決着を着けるべく 新聞の署名入り記事を通じて 「支援する製品における労働と供給のつながり を 出来る限り知ろうとすることは 私達皆の責任だ」と訴えかけたのです その意見に心から賛同します
労働と供給のつながりからの搾取に対して 手をこまねいているような そんな会社を見限って その会社から買わないというような決断を 私たち一人一人がしたらどうなるでしょう? 同じような法律も見限って あるいはすべてのCEOが そうしたビジネスに 「もういらない」を突きつけようとするなら? もし私達の手で出稼ぎ労働者への 斡旋料を廃止できたら? もし私達が短期労働者にも団結する権利を 国外退去への恐怖なしに認めたとしたら? その決断は世界中に伝わっていくでしょう これはフェア・トレードの桃を買うことで 満足するような 罪の意識からの解放を お金で買うようなこととは 全く違います このことは 壊れたシステムを変えるための決断です そのシステムとは 私達が 無意識とはいえ自らの意思で 長すぎる間 その恩恵に預かってきたものなのです
私達はしばしば人身売買被害者たちの 虐待について詳しく述べます それらは私の体験とは食い違うものでした これまでの年月の中での彼らとの対話を通じて 私達は自分たちが思う最悪な日々より最悪で これまで生きてきた経験以上に 重大な存在だと学びました 特に人身売買の被害者たちはそうでした 彼らはコミュニティの中で 最も機知に富み 快活で 責任感のある そんな人々だったのです 一か八かという状況で頼りになる そんな人々です 彼らなら「この指輪を売ろう なぜなら あなたにより良い未来をもたらすから」 と言うでしょう 彼らは希望の担い手です
彼らが必要としているのは 蓄えなどではありません 彼らに必要なのは結束です なぜなら彼らは 今日もっとも強力な 社会正義のための運動に携わっているからです 子守やお手伝いさんをしていた人々が 自分の家族と 雇い手の家族と共に行進するという 行動に出たことが 家庭内労働者の権利に関する 1つの国際条約を私達にもたらしました 人身売買組織によって性産業に従事させられた ネパールの女性たちもまた 団結し 世界でも最初の 人身売買に対抗するための 組織を作り出しました そこでは人身売買の被害者が責任者となり また職員となって働いています このインドの造船労働者は人身売買によって ハリケーン・カトリーナの災害復興に 従事させられていました 国外退去の脅迫を受けていましたが 閉じ込められた職場から脱出し ニューオーリンズから ワシントンDCまで行進して 労働搾取に対抗したのです 彼らもまた共同で 外国人労働者の全国組織を立ち上げ この組織を通じて他の労働者を通じて サプライ・チェーンの搾取や迫害を軽減すべく ウォルマートとハーシーの工場に 働きかけています さらに司法省が立件を拒んだにもかかわらず ある庶民派の弁護団が12にも及ぶ 民事訴訟の最初の訴訟において勝訴し この2月に原告団は 1400万ドルの補償金を勝ち得ました
彼らが戦っているのはいわばまだ見ぬ人々 他の労働者や あるいは私達 全世界のためであるかもしれないのです 私達も同じように行動すべきときです 今こそ私達は決断を通じて 自らが人として また社会として どうあるべきかをしらしめる機会なのです これまで私達が繁栄としてとらえていたものは もはや 他の人々の痛みの上にあるかぎりは 繁栄ではないということを また私達は皆 互いの人生の 欠くべからざる一部を織り成していて だからこそ異なる選択をする力があるということを
私のオバチャンの話をこうした場で 共有するのは 気が進みませんでした 今回こうしてTEDに出て このステージに上がる前まで この話を知るのは 数人の知り合いにとどまっていました なぜなら まさに1人のジャーナリストらしく 私もまた誰かの話にこそ関心があって 話を広めることや まして自分の話をすることは二の次だからです この件を報道する上での見極めは まだ着いていません 提出すべき資料請求書は山となっていますし まだまだ取材すべき相手やその母親がいます さらにオバチャンも探し出せていません 彼女がその後どうなり 今どう暮らしているのかもまだわからないのです 私の話したこのお話は とりとめのない未完成なものですが 現在の私達が置かれた 混乱状況そのものでもあります 特に人身売買に関しては 私達全員が巻き込まれているのです でもだからこそ 私達全員が 解決への手がかりでもある より公正な世界をもたらす上で なすべきことを見出すのは私達の仕事であり 私達が伝えるべき物語です だからこそ私達がどうすべきだったかを その始まりから伝えさせて欲しい 共にこの物語を伝えていきたいのです
どうもありがとうございました
(拍手)
誰もが大好きな毎日のバーゲンセール―10ドルのマニキュアや取り放題のエビ―の背後には、その価格を低く保つための強制労働が隠されています。ノイ・スラプカウは、米国やヨーロッパ、そして途上国において多発している人身売買についての調査結果とともに、今や世界中の消費者を潤している強制労働の人道的問題について論じます ( translated by Kazuo Watanabe , reviewed by Tamami Inoue )
ツイート シェアする動画撮影日:2015/3/19(木) 0:00
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