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2017.9.7
「引きこもり」するオトナたち
「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。
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今なぜ「引きこもり女子会」なのか
今、全国の引きこもり状態の女性たちから開催を熱望されているのが、「ひきこもり女子会」だ。
引きこもっているのは、男性だけではない。男性恐怖症のため、これまでの男性参加者の多い自助会や居場所などには怖くて行けなかった人も数多くいる。そんな「引きこもり等の生きづらさを抱える女性(性自認女性を含む)」たちから、安心して話し合ったりつながったりできるような出会いの場として、「ひきこもり女子会」が注目されるようになった。
<こんなにも多くの(女性の)方が苦しみ、高年齢化している中で、なぜ様々な対策や支援があまりに少ないのか、憤りを感じます。>
このような引きこもる女性からの声が、筆者の元にも毎日メールで届く。「何とかしたいけど、どうしたらいいのかわからない」「相談しても聞いてもらえないし、理解してもらえない」といった女性からの切実な訴えは数多く寄せられてくる。
「ひきこもり支援」という枠組みで見ると、「(若年)就労」の前提となる男性以外、基本的に支援の対象として想定されてこなかったため、「家事手伝い」や「主婦」といった隠れ蓑の下で、彼女たちの存在はなかったことにされ、置き去りにされてきた。
最近、東京・渋谷の「東京ウィメンズプラザ」と京都・宇治市のNPO「こころのはな(心華寺)」などを会場に女子会を定期的に運営し始めたのは、不登校、ひきこもり、発達障害、性的マイノリティなどの当事者・経験者でつくる一般社団法人「ひきこもりUX会議」だ。
UXとは、ユーザーエクスペリエンス(利用者体験)の略。昨年6月にスタートしてから1年あまり。これまでに21回開催し、延べ700人もの女性たちが集ってきた。
参加者の人数は毎回、平均50~60人。年齢層も10代から60代と幅広い。地方からの参加者も、北海道から九州まで全国から集まってくる。遠くから夜行バスで駆けつけた20歳の女性もいた。
共感し合えるだけで変化を起こす女性たち
参加する女性たちは皆、1人で会場にやって来る。しかし、引きこもってきた人たちだけに、すんなり参加できるわけではない。
「ずっと知っていたけど、4回目で初めて来れました」「今日初めて最初から最後まで会場にいられました」などというように、緊張と不安で震えている人たちや「自分の話ができたのは初めてです」などとホッとして泣き出す人も、数多くいたという。
「これだけ溜め込んで、誰にも言えず、ようやくたどり着いて吐露できたって感じです」
主催者の1人で自らも経験者である林恭子さん(51歳)は、集まる女性たちにそんな印象を持った。
「女性たちって、共感し合えるだけで変化を起こすんだということを目の当たりにしています。初めて話した気持ちを“わかる”と言ってもらえる。自分と同じような話を皆がしている。私1人だと思っていたのに、こんなにたくさん同じような人がいることをわかるだけで、女性たちは勝手に動き出しちゃうんです」
不登校から引きこもっていて、働いた経験もなかった20代女性は、女子会に参加して初めて自分の話をしたという。「どんなことでもきっかけが欲しくて、どうしても来なくてはいけない」と女子会に参加した2ヵ月後、女性は「仕事が決まった」と連絡してきた。
仕事を辞めた後、ずっと自宅に引きこもっていた40代の女性は、「将来が不安だから」と参加。複数回参加した後、「復職しようと思っています」との報告を最後に姿を見せなくなった。
ただ、女子会は就労を目指しているわけではない。
「女性特有なのかもしれませんが、気持ちをわかってもらえるだけでいいのかなって。後はそれぞれの事情に合わせて、それぞれ動き出すようです」(林さん)
情報でもなく就労でもなく「交流したい」「出会いたい」
アンケートを見ても、参加理由で最も多かったのは、「交流したい」「出会いたい」で、情報を求めているわけではないこともわかったという。
会では、第1部で林さんと、同じく経験者でUX会議代表理事の恩田夏絵さんの2人が、どうやって人と交流できるようになったのか、親子関係をどう乗り越えたのかなど、“先輩”としての体験談を披露。第2部では、8~10個(東京)のテーマテーブルに分かれて対話する。テーマは「異性が苦手」「親子関係」など、参加者からのリクエストにも応じて設けられる。
女子会に行きたいけど不安な人向けに、予約不要で、扉は開けたままにして入退室が自由。「初めての人」テーブルや「非交流スペース」もつくられる。話すのが苦手な人は聞いているだけでもいい。母親が付き添いで娘と一緒に参加することも多いため、1部については、母親や女性の支援者、記者も入れる。
「私たちとしては、少しずつ自分たちで女子会をつくってほしい」
そう思った林さんたちは、今年7月には横浜市で「女子会のつくり方講座」を開いた。「できればいつかつくってみたい」という声が多くあり、予想以上に好評だった。
「なぜ自分たちが女子会を必要としているのか?」「女子会に何を求めているのか?」など、講座の中で自らを振り返ってもらったことも反応が良かった。
全国では、この1年の間に、兵庫県宝塚市でも女性の臨床心理士を中心にした主催者が定期的に開くようになったほか、表参道の女子会参加者たちが、皆で動物圏に行ったり花火で遊んだりする「お散歩女子会」や、東京の多摩地区を拠点に会場を借りた「ひきこもり女子会in多摩」を始めるなど、女子会の輪は広がりを見せている。
「もっと早く知りたかった」「うちの地域でも開催してほしい」
UX会議のアドレスにも、そんな地方の女性からメールやコメントが寄せられてきた。開催するたびに女子会が必要とされることを感じたという。
「まだまだ知られていないし、知ってくれれば行きたいと思っている人がたくさんいるんだなと感じました」
「女子会全国キャラバン」
そこで、UX会議は日本財団からの助成金を得て、「女子会全国キャラバン」を開くことになった。キャラバンでは、34人の女子会参加者の体験談(漫画あり)などを載せた64ページのブックレットも500円(当事者・経験者は200円)で販売する。
また、キャラバンにおいて、ひきこもり女性たちの日常の意識や状況、環境などの実態調査も実施。来年2月25日に東京ウィメンズプラザで開催予定の女子フェス(男女問わず参加OK)で公表する。
『ひきこもりUX女子会 全国キャラバン』は、9月22日から12月19日まで、全国10都市で開催される。詳細はこちらで。
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なお、毎日、当事者の方を中心に数多くの方からメールをいただいています。本業の合間に返信させていただくことが難しい状況になっておりますが、メールにはすべて目を通させて頂いています。
(ジャーナリスト 池上正樹)