2017.8.23

しまむらがネット通販の展開を検討していることがわかった。一部の報道によると社内に「EC(電子商取引)研究プロジェクト」を立ち上げ、ネット通販に向けた体制整備を開始したようだという。衣料品の買い場はジワリとネットに移行しており、地域に密着した店舗を大事にしてきたしまむらも、ネット化の波には抗えなかったようだ。衣料品販売は急速にネットが伸びており、これまで衣料品の主販路だった百貨店がいよいよ窮地に追い込まれていくのは確かだ。(流通ジャーナリスト 森山真二)
ネット販売を拒み続けてきたしまむらがなぜ!?
「しまむら」といえば、ご存じの通り、地方のロードサイドに店舗が多く、いつも軽自動車や自転車で気軽に来店できる店という印象が強い。その一方で、ネット通販をやっていないがゆえに、「しまパト(しまむらパトロールの略)」と呼ばれる、根強いしまむらファンを作り出し、そのファンがわざわざネットでしまむら製品を紹介するウェブサイトまであるほどだ。
なぜ、これまで頑なにネット通販を拒んできたしまむらが一転、ネット通販参入に向けて検討を始めたのだろうか。
大きな要因としては、国内の衣料品売上高トップのユニクロがネット通販をジワジワと拡大していることや、衣料品販売のサイト「ゾゾタウン」を展開するスタートトゥデイが急速に伸長していることが刺激になっていることは確かだろう。
しまむらの前社長は「サンダル履きで行ける生活道路にある店」を標ぼうして、安くて入りやすい地域密着の店として商売を続けてきた。
それだけに、地域の中でも店舗は必要不可欠なものであり、“ネット”という選択肢はこれまで念頭にはあったが、実際は展開には踏み切れなかったと見られている。
しまむらでは店舗の一本槍でも前期(2017年2月期)最高益を上げている。徹底したローコストオペレーション、本部による集中管理体制、物流の効率化など教科書通りの安売りの論理構築に加えて、仕入れ商品が、主体でユニクロに比べバラエティのある商品政策が消費者に支持されてきたといっていい。
しかし、衣料品販売のネットへの移行は予想以上に早いのである。
ネット販売が伸びているゾゾタウンやユニクロ
例えばスタートトゥデイの17年3月期の商品取扱高は前期比40.3%増の2049億円(ゾゾタウン事業)、営業利益は262億円で営業利益率は12.4%である。
18年3月期の取扱高は、前期比27.3%増の2700億円を見込んでいるという状況だ。思ったよりも急ピッチでネットへの移行が進んでいることが、ゾゾタウンの例を見てもわかる。
ユニクロもあれだけ店舗(837店=16年8月時点)を持ちながら、16年8月期の国内ユニクロ事業のネット通販売上高は前期比30.1%増の421億円で、100億円近く上乗せしている。国内事業売上高に対するEC・通販比率はすでに5%超になっている。
すでにユニクロの国内事業は海外の高い伸び率に対し16年8月期は前期比2.5%増の7998億円と横ばい状態となっており、店頭は値引き頼りで売り上げを維持しているのが現状である。国内店舗網では売上高が伸びなくっている中、ネット通販が売り上げを下支えしているのが実態なのである。
しかもカジュアル衣料品販売では、アマゾンが全米で圧倒的な規模を獲得する一方、アマゾンジャパンも日本で力を入れ始めている。衣料品サイトの「マガシーク」も188億円(17年3月期)となっている。
もはや衣料品ネット通販が拡大期を迎えているといってもおかしくない状況なのである。
しまむらは具体策には言及せず徐々に準備を始める!?
こうした状況の中で、そろそろしまむらもネットを検討してもよいタイミングと見られるが、しまむらではまだネットでの通販の具体策には言及していない。
現在、検討しているのは店舗で品切れしていたり、サイズがなかったりした商品のEC対応である。
店頭にタブレット端末などを設置して、本社のネットワークと結んで在庫を確認しながら商品の注文を受けるという、いわゆる店舗注文の仕組みである。
しかし、この店舗注文でノウハウを蓄積、発展させてネット通販につなげていく方向と見られている。
しまむらでは約2000店あるグループ店舗のレジの切り替えを進めており、これまで対応していなかったポイントカードや電子マネーなどもレジの刷新に伴い対応することにしている。
ICタグの商品の貼付による在庫管理の効率化なども図っていく様子だ。一気にデジタル化が進め、顧客の利便性向上を図ることになりそうだ。
進退窮まりつつある百貨店業界
こうした衣料品のネット通販が急ピッチで進展を見せる中で、進退窮まってきたのが百貨店業界だろう。
百貨店のネット対応はいまだ、売上高に対しわずかな規模だ。オムニチャネルで先行していたと見られている米メイシーズは業績が悪化、店舗対応のオムニチャネル化のお粗末な現状も明らかになっており、メイシーズを一つの目標としてオムニ化に取り組んできた百貨店も何となく士気が低下。その後進んでいる気配はない。
「オムニチャネルの推進」を強力に推進してきた高島屋。同社のネット通販の16年2月期の売上高は約14.0%増の113億円である。17年2月期は130億円程度になったと見られているが、それでも売上高に対しネット比率は1%そこそこの規模である。内訳は明確ではないが、113億円のうち、中元歳暮商品の注文がかなりのウエートを占めており、衣料品の売り上げウエートは低いと見られている。
強力にオムニチャネルを唱えてきた高島屋ですらこの程度だから、他の百貨店のネット売上高は似たり寄ったりの状態で、まず進んでいない。
もはや百貨店に出入りするアパレルメーカーも独自戦略を築き始めている。百貨店偏重を改めようとする動きだ。
百貨店と運命共同体だったオンワード樫山は19年にEC売上高300億円を掲げ、17年2月期の売上高は前期比25%増の150億円になっているのである。もはやEC売上高比率も5%超。このまま百貨店と運命共同体では先細りとばかり、百貨店頭越しの対応である。
繰り返すが、しまむらからはまだ、具体的にネット通販を始めるとアナウンスされていない。しかし、店舗販売にこだわり続けてきたしまむらでさえネット通販を真剣に考えるという、衣料品の販売が急激にネットに移行している現状が、衣料品の販売チャネルとして頂点に君臨してきた百貨店から、そのドル箱を奪おうとしているのである。