毎日新聞 12/6(火) 0:27配信
【ローマ福島良典、ブリュッセル八田浩輔、ロンドン三沢耕平】4日に投開票された国民投票で憲法改正を否決したイタリアでは5日未明、「反対派」を率いた新興政治団体「五つ星運動」の指導者たちが「小さなダビデが巨人・ゴリアテを倒した」と声を上げ、欧州連合(EU)離脱を決めた英国民投票(6月)やトランプ次期米大統領誕生(11月)に続くポピュリズム(大衆迎合主義)の勝利を祝った。
レンツィ首相の狙いは短命内閣の続いた政治の安定と経済の活性化だったが、イタリア紙スタンパのマウリツィオ・モリナーリ代表は「貧困化した中産階級、失業中の若者、移民に脅かされていると感じる労働者ら『反抗の民』が反対票を投じた」と分析した。
賛成票が反対票を上回ったのは20州のうち豊かな北部3州のみ。貧しい南部は反対票が7割前後を占めた。
EUは争点ではなかったが、「五つ星」など反対陣営の大半はEU懐疑派だ。「イタリアがユーロ圏やEUから離脱する方向に漂流する破局的なシナリオ」(ローマ社会科学国際自由大学のクリスティアン・ブラースベルク教授)への懸念も出ている。
イタリアに限らず欧州で左派・右派を問わず急進的な主張が受け入れられる背景には、中間層以下の閉塞(へいそく)感や若年層の高失業率などに起因した政治不信がある。
欧州では2014年の欧州議会選挙で極右やポピュリズム勢力が従来の2倍以上の議席を獲得。英国では国民投票でEU離脱を決めた。こうした状況の中で、EUは17年に主要加盟国の大型選挙を続けて迎える。3月に総選挙を迎えるオランダでは、イスラム排斥を掲げる極右の自由党が支持率首位を争う。フランス大統領選では極右政党「国民戦線」のルペン党首が一定の支持を得ており、既成政党とEUの正念場は続く。
一方、ユーロ圏3位の規模を誇るイタリア経済への不安もある。経済停滞の要因でもある銀行の不良債権問題だ。イタリア銀行(中央銀行)によると、不良債権の総額は3600億ユーロ(約44兆円)。レンツィ首相はその解消に向けて大手行の資本増強を進めてきたが、市場では「銀行救済プランが遅れる可能性がある」(在英エコノミスト)との懸念が出ている。
イタリア以外にも南欧の銀行の多くが健全とはほど遠い状態にあり、不安が飛び火すれば欧州全体が危機に陥る可能性もある。