毎日新聞 12/4(日) 9:30配信
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領(64)が早期退陣に追い込まれそうだ。元毎日新聞ソウル特派員で千葉科学大学の大澤文護教授がリポートする。
朴槿恵大統領は11月29日、「国会で決めた手続きに従い大統領職から退く」との談話を発表した。しかし、大統領の親友、崔順実(チェ・スンシル)被告(60)=11月20日、職権乱用の罪などで起訴=による「国政介入疑惑」をきっかけに始まった毎週末の「ろうそくデモ」で、国民が望んだ“新しい韓国”が生まれるかどうかは不透明だ。
11月26日夜、極寒のソウルで繰り広げられたデモのニュース映像を見て、韓国市民は今後の政治状況によっては、また、ろうそくを手に街頭に出て行くのではないかと感じている。今回の一連のスキャンダルで明らかになったのは、朴政権への失望だけでなく、韓国を支配してきた社会システム全体を変えたいという国民の強い願いだからである。
◇ 財閥に飛び火して国民の不満爆発
「国政介入疑惑」では、政府機密文書が政府関係者でもない崔被告に漏えいしたり、大統領府の幹部人事が崔被告の推薦で決まったりしていたことが明るみに出た。さらに崔被告の娘が名門・梨花女子大学に不正入学したことも判明した。これだけでも国民が政権不信に陥るには十分な内容だった。
さらに事件は財界に飛び火する。大統領府幹部が韓国を代表する財閥などに対し、崔被告が実質的代表をつとめる文化・スポーツ財団に計774億ウォン(約73億円)の巨額資金を拠出するよう強要した疑惑が明るみに出た。
韓国メディアによれば、サムスンや現代など、韓国を代表する財閥幹部が相次いで検察当局の事情聴取を受けた。資金拠出に関与した大統領府幹部や財界幹部は疑惑発覚当初「大企業が自発的に資金を出した」と釈明したが、検察の調査を受けると「大統領の指示でやった」と供述を覆したという。強大な力を持つ大統領から「国のために」と要請されれば、財閥といえども、簡単には拒否できない事情があるのだろう。
だが、韓国国民の目にはそう映らない。財閥と政権が口裏を合わせ、コツコツ働く国民を尻目に巨額の資金を動かし、財閥はその見返りに中小企業や一般市民が手にできない特別待遇を手に入れる。国民は経験上、そのことを十分に知っているのだ。
◇検察は世論の動向を敏感に察知
韓国検察当局は、崔被告をめぐる一連の疑惑捜査によって「政府公文書流出」「文化・スポーツ財団への巨額出資」「通信会社への広告発注圧力」の三つの事件で、朴大統領の共謀容疑を認定した。大統領府は「でっち上げ」と反発したが、検察は大統領の直接事情聴取を要求し続けている。検察は、中途半端な捜査結果に終われば、限界まで膨れ上がった国民の怒りの矛先が自分に及ぶことを懸念しているのである。
韓国には「軍閥・財閥・族閥(閨閥=けいばつ)」と呼ばれる三つの権力があった。軍閥は1980年代の民主化運動により政治の表舞台から姿を消したが、財閥と族閥は生き残った。歴代大統領の親族や家族が権力をかさに不正を働くなどの「族閥」の弊害を避けるため、朴大統領は親族を大統領府に近づけなかったといわれる。だが、無二の親友がその代わりを果たしてしまった。
韓国国民の大多数が、暴力を伴わない平和的なデモを続けた。韓国メディアは「市民革命」と、その功績をたたえる。だが、財閥・族閥が政治の舞台から退場した後、国民の怒りを希望に変えることのできる新たなリーダーがすぐに登場できるのだろうか。どんな優秀なリーダーが登場しても、新たな社会システム構築までには相当の時間と葛藤が必要である。
◇韓国経済はさらなる混乱か
韓国経済は多難だ。韓国銀行によると、第3四半期の実質国内総生産(GDP)成長率(速報値)は前期比0.7%増で4期連続の1%割れを記録。韓国メディアは「第4四半期はマイナス成長の可能性」との悲観的予測を立てている。「日本に比べて活発な消費意欲だけが韓国経済の好材料」と韓国在住の日本人ビジネスマンは不安を口にする。
デモと大統領退任が単なる政治的空白を生み出しただけに終われば、韓国経済は現在の低迷からさらなる混乱に陥る。それは多くの国民が、再び街頭にろうそくを持って出て行かねばならない状況になることを意味している。
Ray:世界的な市民運動が始まりました。日本でも市民意識には同じような高まりが始まっています。世界的な闇の最後の砦ですから頑強に見えますが、市民生活に混乱を招かないように、福祉面での対応次第になります。闇から光の接点、その力の入れ次第では大きな転換を図ることが出来ます。