今日が 青く冷えてゆくシベリア
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現地へと急行したマッケール隊を待ち受けていたモノは!
丸い沼だった。
なんだこれは。見事に丸くはあるが、ちっとも大鍋じゃない。
期待していた特異構造物と対面は出来なかったが、ここでガッカリしてはいけない。
諸兄もご存じの通り、『鍋やドームは必要に応じて地表に突出する』からだ!
マッケールたちはさっそく沼の調査に移った。
もしかしたら、このドロ沼の底に鍋が眠っているかも知れない――!
沼に入って棒で水中を探った結果、マッケールはあることに気付いた。
なにか、沈んでいる――そんな感じがする。
「叩いた音からすると金属で、中が空洞になった物のように聞こえたので、水没した大鍋を見つけたと思いました。それから、またひとつ、もうひとつとよく似た土地が見つかりました。どこでも磁気の大きな変動が起こっていました。このような事実すべてが地中に大鍋が埋まっていることを指し示す証拠だと私は考えています」
さらに調査を進める必要がある。
だが、ここでトラブルが発生する。
マッケール以下、探検隊のメンバーが次々に体調不良に陥ったのだ。吐き気や頭痛に始める急激な症状が隊員を襲い、調査続行は不可能になった。
その病状はヤクート諸族の人々が伝承していた物によく似ていたという。
マッケールは無念を隠せない様子で後のインタビューにこたえている。
「突然、酷いめまいがしてフラつき始めたと思ったら吐き気と熱に襲われたんです。原因はさっぱり思いつきませんでした。歩くことも出来ず、目はかすみ、水を飲むことすら出来ません。瞳孔が急激に拡大していたというので、なにかの中毒だと思いました。家に戻ってから精密検査を受けましたがこの症状を引き起こした原因は医者も突き止めることが出来ませんでした」
結局、マッケールが発見した沼、そしてその底に沈んでいたモノは何だったのか。
番組では放射能の影響を示唆していたが、これに関しての考察は後述するとして、最新の調査まで資料を読み進めてみよう。
マッケール隊の成果は沼や、そこに水没した『何か』を発見しただけに留まらなかった。『注目を集めた』ことも大きな功績だった。
『旅人の日記』という番組で知られるテレビ業界人、エフゲニー・トローシンは大鍋の話を小耳に挟むと、資金力にモノを言わせて全てを明らかにしてやろうと目論んだ。
その調査隊メンバーたるやそうそうたるものだった。考古学者に地質学者、医師そしてロシア科学アカデミーの関係者を含む20名からなる調査隊を送り込み、大鍋の謎に迫ろうというのだ。
トローシンはスポンサーを募り、資金力で決着をつけようとした。日本のテレビ局にも企画を売り込んだようだが、情報が乏しく詳細は不明。
以下は『パートナー』として名が上がっていた団体
■遠征のパートナー
サハ共和国政府
ALROSA
■情報スポンサー
報道機関「ITAR-TASS」 ラジオ局「Ekho Moskvy」
雑誌「ナショナルジオグラフィック ロシア」
雑誌「GEO」 雑誌「ロシアレポーター」 雑誌「Ogonyok」
■サポート
ロシアの極地探検の会
ミールヌイ地区管理
■出版関係
報道機関「ランブラーマスメディア」 報道機関」Rosbalt」
報道機関「ニュース・サイエンス」 情報局 「YASIYA」
TRC 「SURGUTINTERNOVOSTI」 「Rossiyskayaガゼッタ」
新聞「Argumenty Nedeli」 新聞 「生命」 新聞「ヤクート」
新聞「Mirninskyワーカー」 新聞 「Vestnik ALROSA」
新聞「ファッションニュース」
「Mediaatlas.ru」「yakutia24」「kimberlit.net」「sunhome.ru」「city-portal.ru」
と知らないメディアばかりだが、とにかく数だけは凄まじい事になっている。
<noscript></noscript>かくして資金力にモノを言わせて空からの調査が行われる――予定だったが、結局20人編成のチームは結成できず、2人というチームと呼ぶに最小限の単位での探索となった。
そうしてエフゲニー・トローシンによって発見されたのが奇妙なマウンドだ。
遠目には砂山に見えるが、実際には拳大ほどの小石の蓄積によって形成されている。
これが何なのか良くはわからないが、鍋ではないことはわかる。そして鍋と間違わないであろう事もわかる。
「ドームはこれを見間違えたのではないか」という向きもあったが、全然丸くないし、赤い金属じゃないし、人工物っぽくない。だいいち夢がない。ないないばかりでキリがない。
かくして資金力にモノを言わせた捜索もいまいち不発――不完全燃焼に終わった。
マッケールやトローシンに欠けていたモノは何か? それは情熱だ。
権力も金もないが、情熱はある! ということで今度はUFO研究家の有志によって調査隊が結成される。
彼らは異星人によって大鍋が作られたと信じて疑わない。
大鍋の形状って、UFOに似てるよね?
ということはUFOだよね?
凍土に埋まっている現状ではフライング・オブジェクトっていうほどフライングしてないけど、UFOだよね?
ということはエイリアンいるよね?
奴らはもう来ているよね? 人類は滅亡するよね?
ということである。
『円盤状の物体=UFO』や『UFO=エイリアン・クラフト』というのも、いささか本人たちの願望と結託しがちな結論であるが、それはいい。そんなことは大鍋を発見してから大いに議論すればよいのだ。
彼らの調査隊は死の谷の沼地で『ゴムの石』なる鉱物を発見している。
これは『見た目には黒曜石のようであるが、焼けたゴムのような特性がある』という。この発見を受けて一部の有識者によって大鍋やドームとの関連性が主張されたが、分析してみないことには何とも言えない。そして分析結果については続報が見あたらなかった。何だったんですかね。
2012年
これには日本のテレビ局も一枚噛んでいたという話であるので、そのうち日本でも放送されるかも知れない。
番組内容としてはエフゲニー・トローシンのマウンドや、イワン・マッケールの症状、ミハイロフスキの話を後追い調査する形になっており、特筆すべき新発見はなかった
どうだろうか。
この『ヤクートの鍋』は日本ではどちらかと言えばマイナーなオカルト話に分類されるためか、認知度、注目度ともに高いとは言えない状況であるが、ご当地ロシアでは結構な盛り上がりを見せている。
それでも諸兄は言うのでしょうね。
「なんだよ! 結局見つかってないのかよ! どうせ露スケの言うことだし、こんなのはまた『ウォッカ』が生んだヨタ話なんだろ! それが年月重ねてデカくなっただけだ! ロシア女だって歳とりゃ横にデカくなるしな!」
なんと口の悪いことだろうか。
とはいえ、確かにこれだけ探して見つからない事にはオカクロ特捜部としても忸怩たる思いである。
こうなってくると、テンションもなんだか尻つぼみで、心が冷えてゆく。諸兄の心も、凍土が如く氷結してゆくだろう。
しかし、ヤクートで撮られたある写真は、我々にもう一度戦う勇気をくれる。
2008年6月7日、採掘技師アレクサンドル・パブロフとその友人シーリー・イワノビッチの14歳になる息子がオルグイダーク川を下っているときの話だ。
時刻は午前3時~6時ごろ、静かな夜の川に突如として光球が出現した。
巨大な蛍のような燐光、しかしそれだけでは終わらなかった。
見上げれば夜空に異変が!
シベリアの空に、巨大なドームが見えたのだ。
おおお……なんだこれは!
これ完全にバリアじゃないすか! ATフィールド全開じゃないすか!
地球防衛システム発動!
これは我々の失いかけた厨二心、あるいはビリーバー心――ビリビズムを大いに刺激してくれる。すごく……かっこいいです。
本当に、シベリアにはまだ稼働している超古代の防衛システムが眠っているというのか。
我々は、こういった話をヨタ話だと鼻で嗤って切り捨てるほど大人でもないが、素直に信じられるほど子供でもない。
さまざまな情報に踊らされてきたことにより、信じる心を失い、心は冷え、クリティカル・シンキングは鍛えられ、苦笑いばかりが上手くなった。
大の大人がこんな事に時間と金と労力を使って、バカじゃないかと嗤う人もいよう。だが、オカルト・クロニクルとしてはちゃんと向き合ってみたい。大の大人が大まじめにやるから意味があるのである。
だって、面白いでしょう?
『声が凍る国』と前述したが、この酷寒の世界では、他のモノも凍る。凍って、音を立てる。
屋外の気温が氷点下-50℃を下回ると、唇から漏れた息が耳のあたりで凍り付き、微かな音を立てるという。ヤクート地方では、この音を『星のささやき』と表現する。
寒帯の常識は、我々、温帯に住む日本人には計れない。
とはいえ、「永久凍土の下に地球防衛システムが存在し、幾度となく地球を救っている。もう疑う余地もないだろ、な?」と言われてもにわかには首肯しがたい。
地球防衛システム論では、さらに「地球の地底には地下文明が存在し、ヤクートの鍋はそれを裏付けるモノだったんだよ!」と極めて進歩的な話も聞かせてくれる。
実際に『ウールピットの緑色の子供【別項】』や、進撃してこない4メートル級の巨人がいたという『ヤンセン親子の地下世界』などの古典的な地球空洞説の逸話がこのヤクート鍋に並べて紹介されている。
一時期人気のあった、『洞穴都市に住むという悪徳地底人デロ』に関しては触れられていないが、それはいい。
地下にはまだ人類の知らない文明が存在しており、何か企んでいたり、いなかったり――。
ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』では、リーデンブロック教授が地下世界でキノコの森や恐竜を目にしているが、ここからなかなか興味深い(註:ロマン溢れる)考察が得られる。
ヤクート死の谷では、キノコの形状をした特異構造物も目撃されており、これが地下世界からニョッキリ頭を出したキノコの森の一部であると。
そして、シベリア地方ヤクート周辺の永久凍土からは、『氷漬けのマンモス』が多数発見されているのは諸兄もご存じかと思う。
これをして、「地下世界ではいまだマンモスが生き延びており、時折、ヤクート周辺の出入り口から間違って地上へと迷い出てきてしまう。地下からノソノソでてきたマンモスは、息をも凍らせる極寒の世界にあって、その毛皮も意味をなさず、間もなく凍り付き――」という仮説を考えてみたがどうだろうか。ないだろうか。
実際に、1580年にシベリアでは山賊退治の任についていた騎士達が毛の生えた大きな象を目撃しており、20世紀に入ってからも、シベリアはタイガ地帯で、地元ハンターが巨大な足跡とフンを発見し、追跡してみた先で巨大な牙と赤黒い毛を持つ象を発見した。という話がある。
これは、やはり地下世界の出入り口がヤクート周辺にあるという事実を示唆するものではないか。いや、そうに違いない。
では出入り口とは何か?
そりゃあ、もちろん、アレである。『特異構造物』である。
つまり、ドームに見えたモノは、巨大エレベーターだったんだよ!
うむ。この『ドームは兵器というか、エレベーターだったんだよ! なんだってー!仮説』に辿り着いたのは、世界広しといえどオカクロが初であると思われるので、これはロシアのテレビ局に売り込んでゆこうと思う。エレベーターだから、地下に沈む事実と整合性も取れるはず。
おそらく負けず嫌いな諸兄は、オカクロに負けじとさらなる仮説を色々考え、遠からずキノコとドームの形状に着眼するかと思う。
やがて、その形状から『きのこの山、たけのこの里』に辿り着くかも知れない。
そして『つまり死の谷の神話に語られる戦争とは、古代から続くキノコの山×たけのこの里戦争の事だったんだよ!』
という仮説を提唱するかも知れない。
だがそれはない。そのような仮説は荒唐無稽と言わざるを得ない。
冗談はともかく、我々以外の論者はどう考えているのか。
この話がそもそも広く知られていないため、仮説の数は多くない。
『古代から存在する地球防衛システム仮説』
『墜落したUFO仮説』
『超古代文明の遺産説』
『地底人の作ったモノ仮説』
と、なんだか『いかにも80年代オカルト』といった趣のあるモノばかりだ。
そして健全な懐疑のフィルターが通されているとは言いがたい。
ここで公正を保つため、オカルト・クロニクルが懐疑したいと思う。
疑うのは嫌いだからじゃなく、好きだから。懐疑とは乙女心なのである。
まず、ヤクート鍋の情報ソースとして上げられるリヒャルト・マーク教授の『Вилюйский округ Якутской области(Vilyuysky District Yakut area)』はどうだろうか。
この博物書に
「ビリュイ川の支流、アルギュイ・ティミルニト(大きな鍋の沈む川)に大鍋のようなものがある。半分ほど埋もれており全貌は不明である。周囲の植物は異常な成長を見せている」うんぬん、と書かれていると。
こう言うのは、実際に参照するのが手っ取り早い。
この『Вилюйский округ Якутской области』は著作権が失効しており、現在ネット上にPDFが公開されている。
■参考:Маак Ричард Карлович
ここにそのテキストが置いてある。
参照してもらうとわかるが、PDFの40ページからはじまる以下の記述が該当箇所である。
В Сунтаре мне рассказывали, что около вершины Вилюя есть речка, называемая Алгый тимирнить (Большой котел утонул), впадающая в Вилюй. Недалеко от ее берега, в лесу, находится в земле огромный котел, сделанный из меди; из земли высовывается один только край его, так что собственная величина котла неизвестна, хотя рассказывают, что в нем находятся целые деревья…
かっこよくキリル文字を貼ったが、ほとんどちんぷんかんぷんである。だが時間をかけて翻訳してゆけば、たしかに大鍋について言及されており、それがビリュイ川の川岸付近であること、地面から突出していること、植物が奇妙な成長を見せていること、について触れられている。
<noscript></noscript>オカルト・クロニクル:http://okakuro.org/puma-punku/ より転載