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富裕層・大企業の税逃れの手口

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ハートの贈りもの―2016―黄金時代04年 より転載 editor 月刊誌『KOKKO』編集者・井上伸のブログ  Home 経済・税財政, 貧困と格差 富裕層・大企業の税逃れの手口=タックスヘイブンで貧困層から富奪い深刻な財政赤字のツケは庶民へ、ドラッグ・人身売買・臓器販売・マネーロンダリングなど犯罪の温床となるタックスヘイブン 富裕層・大企業の税逃れの手口=タックスヘイブンで貧困層から富奪い深刻な財政赤字のツケは庶民へ、ドラッグ・人身売買・臓器販売・マネーロンダリングなど犯罪の温床となるタックスヘイブン 2015/9/10 経済・税財政, 貧困と格差 コメントを書く

日本の大企業・富裕層はタックスヘイブンで世界第2位の巨額な税逃れ、庶民には消費税増税と社会保障削減」の続きとなる、私が企画・編集した政治経済研究所理事・合田寛さんへのインタビューの後半部分です。

大企業・富裕層はタックスヘイブンで税逃れ
庶民には消費税増税・公共サービス削減
合田 寛 政治経済研究所理事インタビュー タックスヘイブンを利用した税逃れのテクニック
――知的財産権・移転価格操作

――多国籍企業はどういう形でタックスヘイブンを利用し「税逃れ」をしているのでしょうか?

先ほどもアップル社のことなどを話しましたが、ひとつは知的財産権の利用です。特許権や商標権などをタックスヘイブンの子会社に移すことによって、過大なロイヤリティ支払いの形で利益をタックスヘイブンに流し込む。最近の企業は知的財産権の価値が高まっていますから、それによってかなりの利益を移転することが可能になるのです。

もうひとつの方法は、移転価格操作です。これは、価格操作によって利益をタックスヘイブンに帳簿上移すということです。たとえば原材料をタックスヘイブン子会社に安値で販売し、高税率の国にある子会社がそれを高値で買うことによって、高税率国における利益を圧縮する。すなわちタックスヘイブン子会社が利益をたくさん出せるような価格操作をするわけです。しかもこれは帳簿上の見せかけで行う。この手法もかなり使われています。

アップル社の手口=各国の課税の違いを
利用し、どこからも課税されない「二重非課税」に

3つめは各国の税制の違いや二国間条約の抜け穴を利用する課税回避です。これは少し難しい話になりますが、企業が海外で活動するようになると、海外での利益をどの国が課税するかが問題になります。場合によっては同じ利益が海外でも本国でも課税される二重課税のおそれもでてきます。これを防止するために、これまで二国間で租税条約を結ぶことによる対応が行われてきました。租税条約はOECDが指導してモデル条約をつくり、現在では各国で租税条約が3,000近く結ばれていると言われています。しかし各国で租税の考え方が違いますので、抜け穴がいろいろ出て来るのです。そこを狙って課税を逃れることを「条約あさり」と呼んでいます。本来は二重課税を排除するという名目で租税条約は結ばれるわけですが、その抜け穴を狙って、結果的には二重課税どころか、どこからも課税されない「二重非課税」という状況を作り出すことができることが最近のアップル社の事例で明らかになりました。

これをやや詳しく説明しましょう。国際課税の課税原則には大きく言って「居住地国課税」と「源泉地国課税」の2つがあります。

「居住地国課税」の原則は、政府がその国にある企業や居住民に対して課税すると同時に、居住民が他の国であげた利益にも課税するというものです。その国における所得だけではなく他の国であげた利益も含め、また非居住者もその国で利益をあげた場合は課税しましょうということです。これは属人主義といい、人や企業に注目して課税する考え方です。多くの国はこの「居住地国課税原則」を取っています。

それに対して「源泉地国課税」の原則は、所得が生まれたところが課税するという考え方です。これは居住者であれ非居住者であれ、国内所得にのみ課税するという属地主義です。

そうした2つの考え方があり、「居住地国課税」を採用する国が多いもののすべての国が同じではないので、課税原則の違いが各国間で生じているわけです。

さらに居住者の定義も難しく、何をもって居住者とするかも国によって違います。日本では、個人の場合、国内法では「国内に住所を有する者」となっていますが、住民票が日本にあっても税逃れのために海外で1年の半分以上過ごしている人もいますから、難しいところです。法人の場合は「本社所在地主義」ということで、本社があるところが居住地になっています。しかしこれには「管理・支配地主義」という別の考え方もあります。たとえばアイルランドの場合、その国で管理・支配していなければその国の居住者とは認めない、従って課税しないということです。アップル社の場合はこうです。アメリカはいわゆる居住地主義なので、アップル社のアイルランド子会社はアイルランドで設立されているのでアメリカは課税できないのです。一方でアイルランドでは、アイルランド子会社はアメリカで管理しているから課税できない。そのためアップル社はアメリカからもアイルランドからも課税されないという「二重非課税」になっていたのです。

他にもいろいろな税逃れの手法があるのですが、あまりに複雑になるのでこの辺で止めておきたいと思います。

タックスヘイブンがもたらす富の極端な集中
日本は世界で2番目に超富裕者が多い

――こうしたタックスヘイブンによって、どんな問題が起きているのでしょうか?

タックスヘイブンを利用するのは、巨額のお金を持っている超富裕層と巨大な多国籍企業ですが、その結果、富が極端に集中し、格差の拡大をますます大きくする原因を作り出しています。なかでもアメリカが顕著です。1980年代のレーガン政権は累進税を緩和する税制改革を行いましたが、その頃から急激に格差が広がりました。

▼図表3はトップ1%が全体の所得の何%を占めているかを見たグラフです。これによると、トップ1%の所得がアメリカの所得全体の20%近くに達しています。しかもその割合は急激に増えています。これはアメリカだけでなく、イギリスも同じようなカーブで追っています。日本はそうしたことはないと思われてきましたが、やはり近年、トップ1%の所得割合が高まって、今では10%近くに達している状況です。

 

人数や資産の面からも見てみましょう。▼図表4は、資産100万ドル以上のいわゆる超富裕者、日本でいえば億万長者がどれだけいるかを見たグラフです。2012年で億万長者の人数が世界で1,200万人。この5年で860万人から1,200万人へと全体として増えています。その資産の額も2008年の32.8兆ドルから2012年の46.2兆ドルへと増えています。先ほどタックスヘイブンに隠された資産が32兆ドルという数字を紹介しましたが、それはこの一部だと言えます。

 

▼図表5は国別に見た超富裕者の人数です。アメリカの343万人に次いで日本は190万人と世界で2番目に超富裕者が多いのです。こうした超富裕者がタックスヘイブンを利用することで、さらにリッチになることができる状況となっているのです。

 

タックスヘイブンは途上国の富を奪う

また、タックスヘイブンは、途上国からの富を流出させるルートになっています。

「途上国は、資金の不法流出で2010年に8,590億ドルを失った」――これはアメリカのGrobal Financial Integrityという団体が公表した数字です。しかもその大半はタックスヘイブンを利用しているというのです。

この10年間で見ると、途上国は不法流出によって5.86兆ドルを失っています。なかでもアフリカからの流出は急激に増えており、2010年には前年比で24%も増えています。国別に見ると中国やメキシコなどの国が上位を占めています。原因別に見れば、移転価格によるものが多くなっています。犯罪や賄賂も多いのですが、やはり一番多いのは移転価格だということです。具体例は後で紹介したいと思います。

ここで注目すべきなのは、途上国が1年間に失った8,590億ドルは、先進国から途上国に対するODA(政府開発援助)より何倍も多いという事実です。最近のODAは1,250億ドルくらいですので、その何倍ものお金が失われている。そしてこれは先進国の多国籍企業がタックスヘイブンを利用して、途上国から富を奪っているということなのです。

一握りの富裕層がタックスヘイブンで富を隠し
アフリカ諸国の深刻な負債は庶民に

特にアフリカからの流出が多いわけですが、1980年から2009年までの10年間で5,970億ドルから1.4兆ドルの不法資金の流出がありました。これはこの30年間のアフリカのGDPにほぼ等しい額なのです。つまりアフリカにおいて30年間で作り出したものに等しい資金がタックスヘイブンによって奪われてしまっているということです。最も失っている国はナイジェリア、リビア、南アフリカ、アルジェリア、アンゴラなど資源のある国です。ですから、こうした流出がなかったとしたら、この10年間、アフリカは純債権国であったことになるわけです。

問題は対外資産は一部の富裕層によって握られ、負債は国の負債としてアフリカの庶民に背負わされているということです。

貧困国ガーナから富奪うタックスヘイブン
一方で庶民を苦しめる付加価値税

ガーナのビール会社を例にあげましょう。ビール業界は巨大な会社が世界市場の大半を握っています。日本でもビール会社はキリンやアサヒなど数社で市場を握っていますね。世界で見ると4社くらいがビール市場のほとんどを握っています。トップはアンハイザー・ブッシュという会社で、これはハイネケンの商標で有名です。世界2位がSABミラー社です。ガーナにはアクラ醸造社という、もともとアフリカのビール会社があるのですが、今では多国籍企業であるSABミラー社の子会社になっています。親会社であるSABミラー社は、世界67カ国に465の子会社を持っている多国籍企業です。アフリカには醸造とボトリングの64社を持っていますが、それより多い65社のタックスヘイブン子会社を持っています。アクラ醸造社が2007年から2010年に所得税を納税したのは1年だけで、ほとんど無税になっています。ガーナという国は貧困国で、税収は国民所得の22%ありますが、まだまだ財源が不足しています。5歳未満の子どもの死亡率はイギリスの13倍で、人口の3分の1はマラリアにかかり、学校不足で教育もままならない非常に貧困な国なのです。ですから財源がいくらあっても足りない国であるにも関わらず、ガーナ第2のビール会社がほとんど税金を納めていないという状況です。

SABミラー社はどのように税金を逃れているのかというと、ブランドをオランダの子会社に移して、オランダにロイヤリティを支払うわけです。オランダはロイヤリティに課税しないことになっていますので、課税は逃れられる。またスイスにも子会社を持っていて、そこに経営負担金という名目で支払いを行う。スイスの子会社から経営されているという理由で、お金を流出させているのです。商品はアフリカにあるモーリシャス島の子会社から仕入れる形にしています。このモーリシャス島がタックスヘイブンになっていて、そこに利益を落とす。また、モーリシャス子会社から必要のない借金をする。それも過大な借金です。借金をすれば金利を払わなければいけないので、金利という形で資金を流出させることができるのです。そうしたさまざまな形でタックスヘイブンに利益を集めて、そのお金を株主配当としてイギリスに送るという構造です。

その結果、アクションエイドという市民団体の調査によると、2007年には利益よりも3倍ほど多いお金をタックスヘイブンに流していますし、2009年と2010年には利益はマイナスなのに、タックスヘイブンに巨額のお金を流しています。

一方、ガーナ政府の歳入の内訳は、法人税が歳入全体のわずか7%しか入っていない。これは大企業がタックスヘイブンに逃げてしまった結果ですね。一方で、付加価値税が17%を占め国民を苦しめており、それでもまだ不足するので加えて外国からの借金に依存せざるを得なくなっているのです。本来ならば、SABミラーの納税があれば、国の財政も豊かになり、貧困対策の予算も組めるわけですが、タックスヘイブンによってそれができないでいるということです。

アフリカからタックスヘイブンにお金が流れる主なルートとしてロイヤリティの支払いと経営負担金の支払いがあります。アフリカとインド全体を含めて、ロイヤリティの支払いが年間4,280万ポンド、経営負担金は4,700万ポンドあり、それらによって失われた税収はあわせて年間約2,000万ポンド(約30兆円)に達しています。

犯罪の温床になるタックスヘイブン
ドラッグ・マネーロンダリング・人身売買・臓器販売も

タックスヘイブンの弊害をいくつか上げましたが、もうひとつは犯罪の温床になっているという問題です。グローバル・フィナンシャル・インテグリティー(GFI)の調査によれば、犯罪などによる不正な取引による途上国からの流出は年間6,500億ドルにのぼっています。なかでも多いのはドラッグや偽造で、偽造についてはお金の偽造もありますがブランド物の偽造が金額としては大きくなっています。ドラッグの場合はケシの栽培もありますから、現地労働者にも一定のメリットはないわけではないけれど、ほとんどのお金はタックスヘイブンを通じて犯罪シンジケートの懐に入っています。それでも、貧困国にとってはわずかな収入であってもドラッグに頼らざるを得ない側面が同時にあって、状況は複雑に入り組んでしまっているわけです。たとえばコカインの場合、コカイン栽培農家の取り分は末端価格のわずか2%程度でしかないのです。

犯罪による途上国からの流出の年間6,500億ドルの中で最も多いドラッグが3,200億ドルで、続いて偽造が2,500億ドル、人身売買が316億ドルとなっていて、これも闇金としてタックスヘイブンに流れ込みます。また臓器販売などもタックスヘイブンを通じて行われているのです。

マネーロンダリングについてはIMFによる調査があります。それによれば、マネーロンダリングの額は毎年2.17兆ドルから3.61兆ドルにのぼり、世界のGDPの3%から5%も占めています。犯罪による資金というのは裏金です。裏金を持っていても表に出さなければ使うことができません。タックスヘイブンでは裏金の出所や持ち主などが不明でも銀行に預けることができることを利用して、裏金を表金にするマネーロンダリングを行うわけです。

昨年7月に「フィナンシャルタイムズ」が、世界最大規模のイギリスの銀行であるHSBCが麻薬取引のマネーロンダリングに長年かかわっていた事実を報道しました。HSBCはケイマン諸島に6万もの勘定を持っていて犯罪資金をタックスヘイブンを利用して表金にしていたわけです。

金融危機の原因作り出すタックスヘイブン

タックスヘイブンは、金融危機の原因を作り出しているという点も大きな問題です。

タックスヘイブンの「無税・無規制・秘密性」という3つの特徴は犯罪の舞台を提供すると同時に、いわゆる投機マネーにとっても最適の舞台になるわけです。銀行は金融規制を受けているために、表向き無制限な投機活動はできないのですが、タックスヘイブンでは、子会社やファンドを使うことによって、銀行の別働隊として働かせることができるのです。いわゆる「影の銀行」の活躍舞台を提供しているわけです。

また、規制の緩いタックスヘイブンでは投機的な金融商品を開発することが可能です。サブプライムローンなどから作られた証券化商品などの多くは、本国では規制があって開発できないので規制の緩いタックスヘイブンで開発されていました。このようなことが金融危機を作り出した大きな原因となっているのです。

タックスヘイブンを規制する動き
1998年OECDの「有害な税の競争」への規制

――こうしたさまざまな問題を引き起こしているタックスヘイブンを規制する動きはあるのでしょうか?

これまでもタックスヘイブンがまったく野放しだったわけではなく、いろいろな取り組みはありました。それを簡単に見てみますと、ひとつの大きなきっかけは、1998年にOECDが「有害な税の競争」という報告書を出したことです。タックスヘイブンのみならず、OECD加盟国の優遇税制、いわゆる法人税の引き下げ競争など有害な税の競争を規制していこうというのがひとつのきっかけとなり、タックスヘイブン規制の動きが出てきました。その時の考え方は、タックスヘイブンのいわゆるブラックリストを発表して、それに載せることによってタックスヘイブンを減らせるのではないかというものでした。しかし実際には現状は変わらず1998年以降もタックスヘイブンは増えているので、効果はほとんどなかったということが言えます。

その後、再びタックスヘイブンに対する規制の動きが出てきたのが、リーマンショックの時です。金融危機の温床になったという認識が広まって、金融危機直後に行われたG20でタックスヘイブンの規制が話し合われました。その際もブラックリスト方式が取られたので目立った効果はありませんでした。そして、昨年あたりからまたタックスヘイブン規制の声が高まり、今年6月のG8サミットで、それまでに比べてかなり前向きな宣言が発表されました。その宣言には、「国家は、法人が租税を回避するために国境を越えて利益を移転することを許容するルールを変更し、また多国籍企業は、どの租税をどこで納めるのかについて税務当局に報告すべきである。法人の真の所有者を把握し、税務当局及び法執行当局は、この情報を容易に得ることができるべきである」とあります。これは北アイルランドのロック・アーンで宣言されたので、「ロック・アーン宣言」と呼ばれています。タックスヘイブンに反対する市民運動を反映し、国際的な世論を受けてこうした宣言になったものです。

そして、その宣言を受けてOECDがアクションプラン「税源浸食と利益移転に関する行動計画」を作成しました。これは、多国籍企業による利益移転が最も問題だとはっきり認識したという意味で非常に大きなことだと思います。この中で15項目の行動を呼びかけ、ようやく本丸に向かった対策が打ち出されるようになったと言えるでしょう。

その後、9月にロシアのサンクトペテルブルグで開かれたG20サミットでも、同様のことが確認されています。

タックスヘイブンに反対する市民運動を
反映したG8サミットの宣言

G8の「ロック・アーン宣言」で重要なのは、次の4つです。(※カギカッコ内が宣言)

(1)「各国の課税当局は脱税の問題とたたかうために、情報を自動的に共有すべきである」
今も情報交換は断片的にはやられていますが、個々にやられたのでは意味がなく、情報交換が常時、自動的に行われないと、情報があるかどうかも分からないわけです。個別に情報を要求してその都度答えるという現状では、情報を求めた場合にそれを提示するだけですが、それでは何か問題があれば情報を求めるけれど、問題があるかどうかは分からない。やはり自動的に情報を交換することが大事なので、それに向けての一歩が踏み出されている点で、この項目は重要だと思います。

(2)「各国は租税を回避するために利益を国境の外に移すことができるルールを変更すべきである。多国籍企業はどの税をどこで納めるかについて、税当局に報告すべきである」
これも大事なことで、多国籍企業が税をタックスヘイブンに意図的に流していることが問題だという認識に基づいています。要するにそれを明らかにすべきである、ルールをつくるべきであると明示していることが大事です。

(3)「法人は真の所有者を把握し、課税当局はその情報を容易に入手できなければならない」
これも大事なことで、ペーパーカンパニーや匿名者をなくしていこうということを打ち出しています。

(4)「途上国は自らに帰属する租税を徴収するために必要な情報と能力を持つべきであり、他国はこれらの国々を支援する責務がある」

これらの点は、もちろん不十分なところもありますが、やはり一歩を踏み出したということが重要だと私は理解しています。

オキュパイ運動とタックスヘイブン

一昨年、オキュパイ運動がアメリカでありました。このオキュパイ運動は「ウォール街を占拠せよ」という運動で、アメリカの経済的・社会的・政治的な力の頂点にある1%の超富裕者および支配者が、その他の大多数である99%の庶民の犠牲の上に成り立っていて、その犠牲の上で裕福になり、既得権力を維持していることに対する怒りの運動でした。まさにタックスヘイブンはその象徴です。なぜならタックスヘイブンの恩恵を受けているのは一握りの多国籍企業と世界の超富裕者です。彼らはそれによってますます裕福になり、世界の支配をますます強めているのです。それは、それ以外の圧倒的多数の勤労者・国民生活の困窮、中小企業の経営困難、途上国の貧困といったものの犠牲の上に成り立っています。その構造を再生産しているのです。まさにタックスヘイブンそのものはオキュパイ運動で問題になった構造そのものであると言えると思います。

グローバリゼーションを放置すれば
恩恵もコストも不均等に配分される

国連も途上国の問題に取り組んでいますが、そのきっかけは2000年の国連総会で採択された国連ミレニアム宣言でした。この宣言は「今日我々が直面する主たる課題は、グローバリゼーションが世界の全ての人々にとり前向きの力となることを確保することである。というのも、グローバリゼーションは大きな機会を提供する一方、現時点ではその恩恵は極めて不均等に配分され、そのコストは不均等に配分されている」とうたっています。この言葉はとても重要です。グローバリゼーションはそのまま放置すれば恩恵もコストも不均等に配分されるというのです。189カ国が参加する国連で採択されましたが、それはちょうど世紀が変わる2000年のことでした。

貧困問題の解決に向けたタックスヘイブン規制、
国際連帯税、金融取引税による革新的資金調達を

このとき国連は「グローバリゼーションの恩恵を、すべての人に均等に配分するにはどうしたらよいか」という問題を議論し、ミレニアム開発目標を掲げました。2015年をめざして――この目標年次は再来年に迫りましたが、8つの目標が掲げられました。たとえば、「1日1ドル未満で生活する人口比率を半減させる」「すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする」「5歳未満児の死亡率(乳幼児死亡率)を3分の2減少させる」など、特に途上国の貧困問題の解決に向けて、具体的な数値目標を掲げてやろうと決めたわけです。しかし現実には、あと2年を残すばかりですが、この目標には全然届いていません。

こうした目標を達成するためには、第1にお金が必要です。そのためにこれまでにも資金調達の方法がいろいろな国際会議で検討されてきました。それは革新的資金調達と呼ばれています。その一つとして国際連帯税というものがあげられていますが、その一つに金融取引税があります。そして2004年の専門家グループでは、タックスヘイブンの規制も財源の一つとしてあげられました。2007年にもタックスヘイブンを中心とする提言が盛り込まれています。

しかし、タックスヘイブンについては全体としてそれを無くすことは難しいということで、運動はいろいろ取り組まれてきましたが、実現は難しいのが現状です。金融取引税の方はようやくEUなどで導入することが決まりました。あるいは航空券連帯税(途上国の医薬品に使われる)もフランス、韓国などいくつかの国で実現しています。そうした形で革新的資金調達は実現する動きになってきていますが、タックスヘイブンの方は、いろんな報告書で提言されてはいますが、なかなか難しい問題があって実現には至っていません。そうした中で最近、日本で国際連帯税フォーラムが設立され、タックスヘイブンの研究会が去年から開かれ始めました。こうして日本でもタックスヘイブンに対して取り組もうという動きが出てきています。

この9月に開かれた国連総会でもポスト2015が議論されましたが、結論は来年の総会にもち越されました。ポスト2015というのはミレニアム目標の目標期限である2015年以降、どのような目標を立てるかという問題です。途上国の貧困や開発の目標を達成しようとするのであれば、それを阻害している障害をとり除くことが第一です。その点からみてタックスヘイブン対策は、ポスト2015の重要課題として位置づけられる必要があります。国連では来年の総会に向けて民間の意見を求めているので、私たちもポスト2015の課題として、タックスヘイブンを正面から取り上げることを求めていく必要があります。

不均等配分を増幅するタックスヘイブンから
人々が等しく享受できるタックスシステムへ

国連ミレニアム宣言の「グローバリゼーションは、恩恵は極めて不均等に配分され、そのコストは不均等に配分されている」という指摘は大変重要だと思います。この不均等配分をどうするかという問題は、解決を要する重要な問題として私たちにつきつけられています。ところがタックスヘイブンは、そのグローバリゼーションによる不均等配分のメカニズムを一層増幅する役割を果たしているのです。グローバリゼーションの果実を世界の人々が等しく享受できる仕組みが必要なのです。

グローバルタックスということがいろいろなところで言われていますが、グローバルタックスの課題もやはりグローバリゼーションの果実を世界の人々が等しく享受できる税制というところに焦点が当てられなければいけません。いまのタックスシステムは、グローバリゼーションが進展する中で大変遅れている分野の一つです。グローバリゼーションのスピードに追い越されてしまっているのです。いまのタックスシステムが時代遅れだからタックスヘイブンにきちんと対応できないのです。ですので、課題としては金融取引税など革新的資金調達の検討と実施はもちろん大切なことですが、それ以前の問題として、現行税制の基盤を蝕んでいるタックスヘイブンにメスを入れることが、何にも増して最も重要で不可欠な課題ではないかと私は思っています。

タックスヘイブンによる富の集中が示すアベノミクスのトリクルダウン幻想
――アベノミクスは貧困と格差をさらに拡大するだけ

アベノミクスは「世界で一番企業が活動しやすい国」にすれば、大企業が儲かり日本全体も潤うというトリクルダウンの理論で経済政策を一層推し進めようとしています。しかし、これまでタックスヘイブンの現実を見てきたように、大企業が儲ければ儲けるほど大企業の取り分は多く負担は少なくなり、逆に、庶民の取り分は少なく負担は大きくなるという結果がもたらされています。貧困と格差がさらに拡大するだけで、トリクルダウンなどまったくの幻想であることが分かります。

大企業と富裕層の「税逃れ」許さず財源確保へ
国公労働者はタックスヘイブンとたたかう先頭に

――タックスヘイブンの問題を、国家公務員労働者はどう考えればいいでしょうか?

やはり、税のあり方というのは国の最も基本的な問題であり、何よりも公正さが求められます。
とりわけタックスヘイブンの問題は、第一に、税のあり方の公正さ、税の正義にかかわるものです。税のあり方を公正なものにするということは国家公務員労働者にとっても大事なことではないでしょうか。タックスヘイブンと最も戦闘的にたたかっているイギリスの市民団体であるタックス・ジャスティス・ネットワークも、その名前が示すように税の公正を求めているのです。ですので何よりも税の公正さが大事で、その対極にあるのがタックスヘイブンの存在なのです。

また、国家公務員労働者の人件費も国民本位の公共サービスの提供も財源がなければ厳しくなるわけですから、財源をきちんと確保するためにもタックスヘイブンによる大企業と富裕層の「税逃れ」を正すことがとても大事です。税を公正なものにするためにも、財源を確保するためにも、タックスヘイブンは国家公務員労働者が最も関心を持たなければいけない問題だと思います。

また、タックスヘイブンの存在は、世界規模の「法人税引き下げ競争」や「富裕層課税引き下げ競争」を引き起こし、各国の税収を脅かすものでもあります。そして、その税収減のしわ寄せは消費税増税など勤労者に対する課税となり、国家公務員労働者を含む一般国民が負担せざるを得なくなるという問題でもあります。そうした点からも国家公務員労働者がタックスヘイブンの問題とたたかう先頭に立って欲しいと思います。

――本日は長時間、ありがとうございました。(※2013年9月4日、インタビュー収


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