2015.08.03
18世紀のヨーロッパで活躍したとされるサン・ジェルマン伯爵は、スペイン王妃マリー=アンヌ・ド・ヌブールと貴族メルガル伯爵の間に生まれた私生児だったといわれている。あらゆる分野の知識に精通し、音楽や絵画にも優れた才能を示したとして評価されているが、彼の生涯には不明な点が実に多く、今もさまざまな説が囁かれているのだ。
さて、歴史においてサン・ジェルマン伯爵が公式に登場するのは、1710年~1822年まで。数えきれないほどの目撃情報が残されているが、奇妙なことに彼の容姿は何十年経っても全く変わらなかったという。目撃者には、フランスの有名な作曲家ジャン・フィリップ・ラモーや、『回想録』の著者であり希代のプレイボーイとして多くの女性と浮き名を流したことでも有名な冒険家カサノヴァ、またフランス国王ルイ15世とルイ16世、さらにマリーアントワネットやナポレオン・ボナパルトまでもが名を連ねているという。
しかし、ここからが話の本題だ。驚くべきことに、なんとサン・ジェルマン伯爵は、(特に歴史の転換期において)さまざまな時代のさまざまな場所で目撃され続けているのだ。(諸事情によりここで名前を挙げることはできないが)現代の日本にも「サン・ジェルマン伯爵と会った」という者が複数名存在する。魔女である筆者が入手した情報によると、サン・ジェルマン伯爵は1984年ごろから日本に滞在していた模様だ。果たして、サン・ジェルマン伯爵とは何者なのか――? 今回はこの謎に迫ってみよう。
■サン・ジェルマンの正体は?
サン・ジェルマン伯爵とは一体何者なのか?これには諸説入り乱れているが、代表的なものがタイムトラベラー説である。確かに、さまざまな時代にその姿を現すサン・ジェルマン伯爵が未来人だとする話は興味深い。ただし一般的には、「タイムマシンを使ってタイムマシンを作った時代よりも前に遡ることは不可能」と考えられているため、若干の疑問が残る説ということになるだろう。
また、「サン・ジェルマン伯爵は特殊なテロメアを持っていた」とする説がスコットランドの生物学者によって提唱されている。動物の細胞には遺伝子が存在するが、細胞分裂の際に、その両端にあるテロメアという部分が短くなり、やがてなくなると分裂は止まる。それが老いと死につながるわけだが、もしもリング状の遺伝子を持っていればテロメアが短くなることなど起きず、生殖はできないものの不死の身体になる。生物学者が導き出した確率によれば、そのような人間が今までに5人は生まれているはずだという。
他には、サン・ジェルマン伯爵が「イルミナティ」のメンバーであり、不死の秘儀を受けていたとする説や、薔薇十字団員だった、という説がある。それによると、彼は不老不死の薬「エリクサー」を用いていたという。実際、本人が周囲にことあるごとに「自分はエリクシール(命の水)という不老長寿の秘薬のおかげで、もう2,000年も生きている」と語っていたとの逸話も残されているようだ。イルミナティや薔薇十字団は、ともに錬金術的な自然哲学を持った秘密結社であるため、筆者としては、これが最も有力な説であると考えたい。
■不老不死の秘薬「エリクサー」
「エリクサー(elixir、エリクシャー、エリクシール、エリクシア、イリクサ、エリクシル剤、エリキシル剤)」とは、錬金術において“飲めば不老不死となることができる”と伝えられる霊薬、もしくは万能薬のことである。錬金術における至高の創作物である「賢者の石」と同一、またはそれを用いて生成された液体であると考えられており、これまで数多の人物が製造に挑んできたが、依然として製造方法は不明だ。
なお、中世ドイツにはパラケルススという医師が「賢者の石(=エリクサー)」を用いて医療活動を行っていたという伝説が残されている。ちなみに彼は、錬金術による人工生命体「ホムンクルス」を創造したと伝えられる人物でもある。
時代の転換点に、突如として姿を現すサン・ジェルマン伯爵――。今日では“不死の人”として、神秘思想家たちから並々ならぬ敬愛を集めている。次に彼はどの時代にやって来るのだろう。私たちが生きる現代が歴史の激動期に当たるとすれば、再び彼に会える日は近いのかもしれない。そもそも今、安保法制をめぐり揺れる日本に滞在している可能性も否定できない。出会えた時には、エリクサーの製造方法をぜひとも教えていただきたいものである。