2015年04月18日
(引き続きドイツの人類学者クリスチャン・ラッチ博士へのインタビューを)
Sonia: 彼らの呪文も学ばれましたか?
Christian: ああ、彼らは僕にいろんな呪文を教えてくれた。
ある時僕が畑仕事を手伝っているときに、マシェティ(鎌)で足を切って大けがをしたんだ。傷口が開いてすごく出血していた。ふつうだったら、病院に運ばれなければならない状態だった。消毒や包帯もなかった。すると長老がかけつけてきてくれた。そしてこういうんだ。
「そのマシェティで、傷を負ったときと同じ動作をリピートするんだ」
『そんなバカな』と内心思ったが、僕は言われた通りにやってみた。長老はそのとき僕がわからない言葉の呪文を唱えたんだ。そしてその呪文を僕に教えてくれて、三回同じことを繰り返すようにといった。いわれるとおりに従うと、血が止まったんだ。凄いことには、その傷が思ったより早く治ったんだよ。実に魔法だった。あの時から長老は、ほかの呪文も僕に少しずつ教えてくれるようになったんだ。
トウモロコシが速く育つ呪文
狩りで獣に出会う呪文
女が自分に恋する呪文 などなど
S: 最後のそれいいですね。ドイツに戻られてからその呪文を試されましたか?
ラカンドン族の女性に限らず、西洋人の女性に対しても効果はあるのでしょうか?
C: ああ、あるよ(笑)
彼らの言葉で「世界」は「森」という
(1992年にカリフォルニア大学バークレー校にて、クリスチャン・ラッチ博士が行なった講演から)
世界の終焉
ラカンドンの言語で「世界」は、‘K’ax’といい、森という意味である。ラカンドンの世界では、日常生活で必要なものはすべて森から与えられるからである。彼らの生活はすべて森に頼っている。彼らは森と自分たちの相互関係をしっかり把握しているので、森を破壊から守るためにはできるだけのことをする人々である。森に対する尊敬がある。
森の草木は、ラカンドンたちにとって暦と同じである。たとえばトウモロコシを植える時期も草花から彼らは知ることができる。特定の時期に咲く花を基準に彼らは種まきをする。彼らの行事のすべてが森の環境を尺度に決められている。
森の大木には、人間と同じ姿をした霊が宿っていると考えられていて、木がまだ生きているのなら、その木の霊体は、逆さになって木の幹に存在しているとされている。木の精霊の腕は根の方向に伸びていて、足は枝に向かって生えていると彼らは言う。もし木を伐採すれば、木の精霊は幹を抜けて、天に向かって旅し始める。天に辿り着いた木の精霊は人間の姿をしていても、喉は突き抜けていて血だらけの姿をしていると彼らは信じている。
『もし‘Hachakyum’(天の意識である我らの真の主)が、血まみれの精霊を多く見てしまったのなら主は怒り、必要以上に木を切る人間を罰せられるだろう。‘Hachakyum’の怒りをかうと、災害を天罰として人間に下すだろう。』
このような言い伝えからラカンドン族は、家や丸木舟を造るといった生活目的以外には、木を伐採することはない。
20世紀初頭からラカンドンの森には、マホガニーの木の採集目的で、材木会社が入って伐採が始まった。彼らは原住民ではないので、ジャングルの知識もなかった。牧畜をやってきたカウボーイたちだった。今日ラカンドン族の住む熱帯雨林の森の三分の二が破壊され、本来の環境は損なわれてしまった。
森の中で平和に暮らしてきたラカンドン族は、ただ世界が終わる日が訪れる日を無力に待っているのみである。彼らの聖なる家である‘Yaxchilan’には、古代から伝わる予言が石に彫ってある。そしてその予言は、真の主の息子である ‘Akinchob’が記録して残したという言い伝えがある。
ラカンドン族の予言
「世界の終焉は訪れる。ずっとそう語られてきた。木がすべて消えた時に終わりは来る。すべての木が伐採されて森が消え、そこら中が人間でいっぱいになる時が訪れる。マホガニーの木も伐り倒されて、森の樹木が全部消えると世界の終りが近づいてくる。嵐がやってきて終わるのか、太陽がすべてを焼き尽くすのか、寒さが襲ってくるのか、それはわからない。世界の終わりは意外と速く訪れる。夜明けから太陽の光が木のてっぺんに差し掛かるのと同じくらい速く訪れる。我らの真の主である‘Hachakyum’が、我らの血を集めて、彼の‘Yaxchilan’(主の家;宇宙の中心)に我らを皆集めるだろう。」
Posted by 愛知 ソニア at 20:50 2015年04月16日 マヤのラカンドン族 その2 ドイツ人人類学者クリスチャン・ラッチ博士へのインタビュー
Sonia; ‘Gateway to inner Space’というタイトルの本にあなたは素晴らしい研究データを発表されていますが、まず質問したいことは、なぜあなたが人類学に興味を持つようになったのか? です。
Christian; 異なる現実を知る必要があると感じたからさ。つまり、異文化で暮らし、異なる文化の視線から世界を見たいと思ったからだよ。高校を卒業してからハンブルグ大学で中米の先史民族の言語と文化を専門に教える文化人類学部があることを知ったんだ。我々と異なる現実に住む人たちのことを学ぶには、まず彼らの言語を学ばねば、なにも始まらないだろう。だから僕はマヤ語のコースをとった。さらには、コロンブスのアメリカ発見以前の世界を今でも維持しているメキシコ南部の熱帯雨林に住むマヤ族について教わったんだ。
S; その原住民たちとあなたは生活したのでしょ?
C; うん。「ラカンドンの森」と呼ばれる地域に住んでいるセルバ・ラカンドンと呼ばれる人たちとね。彼らにとても会いたかったし、どうしても会わなければならないという強い気持ちに駆り立てられたんだ。メキシコに着いたらまずユカタン半島で、自分がそれまで学んできたマヤ語が通じるものか試してみたよ。そして実際にすらすら話せるようになった段階で熱帯雨林に足を踏み入れ、ラカンドン族を探した。
S; 森に入る前に彼らと会えるためになにかアレンジしましたか?
C; いや、ぜんぜん。ただジャングルの中へと歩き進んでいった。前もってできたことは、マヤ語の知識だけだった。ラカンドン族の言語はマヤ語に似ている部分が多く、スペイン語を彼らに話しかけるよりも信頼感も違ってくるだろうと思ったからだ。ともかく僕は、ジャングルの奥へ奥へと歩いて行った。実際に彼らに出会うまで2日かかったよ。
「パレンケ」という地名は、ラカンドン族の言葉で「地球のへそ」という意味で、彼らの神話から生まれた。
ジャングルの中を歩き始めた時は、これから何が起こるか予想できないので、僕はとてもワクワクしていた。と同時にちょっとナーバスだったかもしれない。だけどジャングルを歩きながら、木々や植物や動物を見ていたら、なんだかとても落ち着いた気分になってきたんだ。
ラカンドン族の土地に近づいていくにつれて、警戒心やあらゆる思考がストップしている自分を感じられた。あらゆることに対してオープンになれた。
さまざまなシンクロの運びによって彼らと会えたのさ。まず、セスナで彼らの集落に降りていかなかったことは正解だった。次に僕の長髪姿は彼らに安心感を与えた。彼らにとって長髪は、偽りのない人間の姿として見えたのだ。彼らのことわざに、
『髪の毛の短いのは、頭も切り落としたのと同じだから、そんな人間は思考ができん!』
ってあるくらいだ。
とにかく僕は長髪のおかげでずいぶん得した。しかしもちろん、マヤ語が話せたことがいちばんよかった。村のエルダーは、僕が宣教師じゃないってことがすぐに理解できたからね。自分の家に泊まっていいとすぐに言ってくれた。
「僕はジャングルで生活するのを学びたい。僕が住んでいるところは、ジャングルは残っていないからだ」
と、僕はその長老に説明したんだ。そして、彼らが僕を食わせてくれるんなら、なんだってすると、僕は彼らに言った。そのときから僕は彼らのトウモロコシ畑に行ったり、ジャングルで生き延びるためのあらゆることを学び始めた。
S: ハンティングも含まれていますか?
C: もちろんさ。猟はいちばんおもしろかった体験のひとつだった。僕は子供の頃、絶対に銃には一生触れたくないと思ったことがある。戦争は絶対反対だが、しかしジャングルで生き延びるためには狩りは必然的だ。銃や弓矢に直接触れて獲物を殺すというきわめて基本的な体験だった。自分の手で得たものしか食べ物はないんだから。狩猟採集は、腕次第なんだ。とても深い体験ができた。というのも、心理的効果がすごいんだ。狩りを始めてから僕のマインドは完全に変化したよ。
S: ちゃんと猟ができるためには、環境を敏感に把握しないといけないから?
C: そのとおりだ。テレビの画面を通してだけしかジャングルを知らなければ、当然ジャングルには動物がいっぱいいると思うだろう。しかし、実際にはその正反対で、どんな動物もほとんど目に留まらない。虫くらいしかほとんど目につかない。見つけ出す方法を知らなければ、目に入らない。ラカンドンたちは僕に動物を見る方法を教えてくれた。
狩りに何度も連れて行ってくれて、さまざまなことを説明して教えてくれた。動物の気配を感じ取ることを教わった。熱帯雨林についての考え方が完全に変わってしまった。いちばん最初に獲物を得た日のことは、今でもはっきりと覚えている。
オウムを殺したんだ。とはいってもオウムはあの辺りでは比較的よく見かける鳥だけど、とてもうまいんだ! 肉は茶色をしているけど、オウムは果物しか食べないので、甘味があるんだ。
ラカンドンは、オウムは体にとてもいいっていうんだ。食べるとすぐにそのパワーが体中に伝わってくる。彼らと一緒に暮らしているうちに、僕は自分の体がすごく敏感になってきていることに気づいたのだ。
彼らの食生活の基本は、トウモロコシ、豆類、少々の野菜類で、魚やさまざまな昆虫類も日ごろから食している。しかし、動物は彼らにとってとても特別なものものなんだ。毎日食するトウモロコシからは、一定のエネルギーが提供されるが、本当のパワーは、それ以外に付け加えられたものによって供給されると、どんどん感じられるようになっていった。というわけで、肉が無性に食いたくなる。パワフルな食べ物だからなあ。自分が獲物を捕らえたら、みんなで分かち合うんだ。なんてったって、貴重な食料だからなあ。
僕が初めて動物を獲ったとき、自分で生きられるという自信がついたし、それでもっと自由になれたんだ。それでジャングルの生活に馴染むことができたんだ。ジャングルの生態をもっとよく知ることができたのだ。
スーパーに行ったり、レストランに行くだけなら、食べ物に対してなにもリアルに感じられるものはそこにはない。死んでいる植物や死んでいる動物を買うんだから。
その土地で収穫できる食物を集めるということは、もっとも伝統的な行為であり、我々の意識を何千年も前の意識へと戻してくれる。狩猟体験によって、これほどにも意識が変わるとは思ってもみなかった。自分でも驚いたよ。自分の中で古い人間の本能が蘇ってきて、ジャングルでの歩き方まで変わってきたんだ。動物のいる場所がわかるようになった。今まで感知できなかった微妙な音が聞こえるようになったのだ。ジャングルと一体する感覚になったとでもいえるかな。
S: なにかすごく奇妙な狩猟体験をしたって講義で聞かせていただいたのですが、もう少し詳しく教えてください。
C: ああそうだった。あれはちょうど、トウモロコシがほとんど収穫できる時期だった。トウモロコシを狙う獣がいるので、交代で畑を見張らなくてはならなかった。猟には絶好のチャンスでもあった。それで僕も木の上に座って畑を見張っていたんだ。すると4メートルほど離れた枯れ木があって、枝に鳥がとまっていた。
『これは運よく食べ物を授かった』
と思ってその鳥を銃で打ったんだ。その鳥は爆発したように羽がそこら中に舞い散った。その鳥も地面にばたんと落ちたのを見届けたのだが、近づいてみると鳥の死体もなければ、羽一枚も落ちてないんだ。そして、木を見上げると、その木さえないんだ。まったく信じられなかったよ。酒なんか飲んでなかったし。
村に帰ってからエルダーにその話をすると、彼は僕のことを笑ったんだ。これはよく起きることだって。つまり、ジャングルのスピリットの仕業だというのだ。その説明だけで、僕は満足しなければならなかった。
S: 森の中でそのような経験をすると、西洋的な科学と合理的な世界観は崩れてしまうのでは?
C: たしかにそのとおりだ。僕は子供の頃、ドイツの神話なんかに夢中になって育った反面、とても科学的な思考を通して学んだ。熱帯雨林のジャングルでの経験で、くだらん科学は捨ててしまったのさ。現実に対する敏感さが消えないように。それは大きなロスだよ。特に学校で教えられるような一世紀もの間基盤が変わらない科学はなおさらだ。そんな科学を捨てた時からもっと全体性のある世界が開けてきた。
S: ラカンドン族はあなたに種族の秘密や魔法を教えてくれたのですか?
C: もちろん。初めて彼らを訪ねて行ったときは、どんなことを体験するか、まったく予測できなかった。ただ彼らと一緒に生活したいという願望だけだった。それがまるで磁石のように彼らの生き方に魅せられ、数年間一緒に暮らした後、ドイツに戻ったり、また彼らを訪ねたりを何度も繰り返した。ラカンドンは僕を受け入れてくれて、エルダーの用紙として迎え入れてくれた。ドイツに帰ったときは、彼らについての記録をまとめた。とくに彼らの言語に対しては、かなり科学的な研究を行なった。今では彼らの言語をほぼ完ぺきに話すことができる。
S: 彼らの呪文も学ばれましたか?
次回に続く
Posted by 愛知 ソニア at 18:44 │シャーマニズム 2015年04月15日 マヤのラカンドン族 その1 ラカンドン族はまさに今日生きる純粋なマヤの子孫たちです。彼らはメキシコとグアテマラの国境付近の密林に住んでいる原住民たちです。
私は20年近く前に古代マヤのあの有名なパカルヴォタン王のピラミッドがあるユカタン半島のパレンケを訪れました。訪れた理由は、民族植物学会に出席するためでした。パレンケの遺跡近くにある広大なホテルロッジで一週間開催されました。
パレンケの遺跡にあるパカルヴォタンの石棺の蓋
講義をされた先生たちは、アルバート・ホフマン博士、テレンス・マッケナ、アレクサンダー・シュルギン博士、ポール・スタメッツ、クリスチャン・ラッチ博士といったそうそうたるメンバーでした。午前中は、各種民族植物の化学の講義で、午後はパレンケの遺跡で授業がありました。
ある午後クリスチャン・ラッチ博士は、参加者全員をパレンケの遺跡に案内しました。すると遺跡のある場所に真っ黒な長髪で白い衣を着た原住民の人たちが観光客たちに彼らが作った土器の人形やマヤの香を売っていました。ラッチ博士は、原住民たちととても懐かしそうに挨拶を交わしていました。彼らがラカンドン族で、今もジャングルの中に数百人の集落を成して暮らしています。
ラカンドン族の暮らしは、今は昔とでは随分変わったようですが、完全に変化する前にラッチ博士は、三年間彼らと一緒に森の中で暮らした経験があります。
ハンブルグ大学人類学学部の教授であるクリスチャン・ラッチ博士は、アルバート・ホフマン博士の愛弟子でした。彼がラカンドン族とジャングルの中で狩猟生活を三年間も続けていたことを、とても興味深く思ったので、彼にインタビューをして、ラカンドン族の呪術や預言などもたくさん教わった話などを聞かせてもらいました。ラッチ博士は日本にも何度も来られています。その理由をお聞きすると、フグの毒を研究するためだそうです。
「フグの毒でぎりぎり寸前まで何度も行ったよ。 最高さ!」
世の中にはかなり変わった人もいるんですね。
ハンブルグ大学のクリスチャン・ラッチ博士
中でも印象的だった話は、彼らの集落のど真ん中には「神の家」とよばれる神社のような場所があるのですが、彼らはカヌーのような舟に自然に生えている植物や ガマガエルを入れて、おまけに自分たちのツバをその中にいっぱい吐いて、発酵させ、ビールのようなものを作り、その「神の家」(Yaxchilan)で何日も酔っ払う儀式が繰り広げられることです。その神の家には、宇宙の創造主Hachakyumが住んでいると彼らは信じています。男性だけがその神の家でかなりぐてぐてになるまで酔う儀式です。その間に「バルチェ」と呼ばれる松脂のようなものを香として焚き続けます。
バルチェ
クリスチャン・ラッチはマヤ語を勉強した後、ジャングルに歩いて三日間かけて入っていき、やっと彼らの村に着きました。
最初に彼らから習ったことは何か?
それはオウム鳥を矢で射落とすことでした。それをしなければ夕飯にありつけないことをまず、最初に彼は学んだといっていました。しかし、ラカンドン族の生活はラッチ博士がいた頃からすると急速に変わったようです。おみやげ物を売るためにパレンケの遺跡まで彼らは出てくるようになり、今ではトラックや電化製品もある暮らしとなりました。
森が消えていく時、世界の終わりが来るという言葉でスタートする古代の預言をHABOと呼ばれる人々が彼らに残しています。
※ クリスチャン・ラッチ博士へのインタビューは次回掲載する予定です。
Posted by 愛知 ソニア at 21:05 │シャーマニズム
Sonia: 彼らの呪文も学ばれましたか?
Christian: ああ、彼らは僕にいろんな呪文を教えてくれた。
ある時僕が畑仕事を手伝っているときに、マシェティ(鎌)で足を切って大けがをしたんだ。傷口が開いてすごく出血していた。ふつうだったら、病院に運ばれなければならない状態だった。消毒や包帯もなかった。すると長老がかけつけてきてくれた。そしてこういうんだ。
「そのマシェティで、傷を負ったときと同じ動作をリピートするんだ」
『そんなバカな』と内心思ったが、僕は言われた通りにやってみた。長老はそのとき僕がわからない言葉の呪文を唱えたんだ。そしてその呪文を僕に教えてくれて、三回同じことを繰り返すようにといった。いわれるとおりに従うと、血が止まったんだ。凄いことには、その傷が思ったより早く治ったんだよ。実に魔法だった。あの時から長老は、ほかの呪文も僕に少しずつ教えてくれるようになったんだ。
トウモロコシが速く育つ呪文
狩りで獣に出会う呪文
女が自分に恋する呪文 などなど
S: 最後のそれいいですね。ドイツに戻られてからその呪文を試されましたか?
ラカンドン族の女性に限らず、西洋人の女性に対しても効果はあるのでしょうか?
C: ああ、あるよ(笑)
彼らの言葉で「世界」は「森」という
(1992年にカリフォルニア大学バークレー校にて、クリスチャン・ラッチ博士が行なった講演から)
世界の終焉
ラカンドンの言語で「世界」は、‘K’ax’といい、森という意味である。ラカンドンの世界では、日常生活で必要なものはすべて森から与えられるからである。彼らの生活はすべて森に頼っている。彼らは森と自分たちの相互関係をしっかり把握しているので、森を破壊から守るためにはできるだけのことをする人々である。森に対する尊敬がある。
森の草木は、ラカンドンたちにとって暦と同じである。たとえばトウモロコシを植える時期も草花から彼らは知ることができる。特定の時期に咲く花を基準に彼らは種まきをする。彼らの行事のすべてが森の環境を尺度に決められている。
森の大木には、人間と同じ姿をした霊が宿っていると考えられていて、木がまだ生きているのなら、その木の霊体は、逆さになって木の幹に存在しているとされている。木の精霊の腕は根の方向に伸びていて、足は枝に向かって生えていると彼らは言う。もし木を伐採すれば、木の精霊は幹を抜けて、天に向かって旅し始める。天に辿り着いた木の精霊は人間の姿をしていても、喉は突き抜けていて血だらけの姿をしていると彼らは信じている。
『もし‘Hachakyum’(天の意識である我らの真の主)が、血まみれの精霊を多く見てしまったのなら主は怒り、必要以上に木を切る人間を罰せられるだろう。‘Hachakyum’の怒りをかうと、災害を天罰として人間に下すだろう。』
このような言い伝えからラカンドン族は、家や丸木舟を造るといった生活目的以外には、木を伐採することはない。
20世紀初頭からラカンドンの森には、マホガニーの木の採集目的で、材木会社が入って伐採が始まった。彼らは原住民ではないので、ジャングルの知識もなかった。牧畜をやってきたカウボーイたちだった。今日ラカンドン族の住む熱帯雨林の森の三分の二が破壊され、本来の環境は損なわれてしまった。
森の中で平和に暮らしてきたラカンドン族は、ただ世界が終わる日が訪れる日を無力に待っているのみである。彼らの聖なる家である‘Yaxchilan’には、古代から伝わる予言が石に彫ってある。そしてその予言は、真の主の息子である ‘Akinchob’が記録して残したという言い伝えがある。
ラカンドン族の予言
「世界の終焉は訪れる。ずっとそう語られてきた。木がすべて消えた時に終わりは来る。すべての木が伐採されて森が消え、そこら中が人間でいっぱいになる時が訪れる。マホガニーの木も伐り倒されて、森の樹木が全部消えると世界の終りが近づいてくる。嵐がやってきて終わるのか、太陽がすべてを焼き尽くすのか、寒さが襲ってくるのか、それはわからない。世界の終わりは意外と速く訪れる。夜明けから太陽の光が木のてっぺんに差し掛かるのと同じくらい速く訪れる。我らの真の主である‘Hachakyum’が、我らの血を集めて、彼の‘Yaxchilan’(主の家;宇宙の中心)に我らを皆集めるだろう。」
Posted by 愛知 ソニア at 20:50 2015年04月16日 マヤのラカンドン族 その2 ドイツ人人類学者クリスチャン・ラッチ博士へのインタビュー
Sonia; ‘Gateway to inner Space’というタイトルの本にあなたは素晴らしい研究データを発表されていますが、まず質問したいことは、なぜあなたが人類学に興味を持つようになったのか? です。
Christian; 異なる現実を知る必要があると感じたからさ。つまり、異文化で暮らし、異なる文化の視線から世界を見たいと思ったからだよ。高校を卒業してからハンブルグ大学で中米の先史民族の言語と文化を専門に教える文化人類学部があることを知ったんだ。我々と異なる現実に住む人たちのことを学ぶには、まず彼らの言語を学ばねば、なにも始まらないだろう。だから僕はマヤ語のコースをとった。さらには、コロンブスのアメリカ発見以前の世界を今でも維持しているメキシコ南部の熱帯雨林に住むマヤ族について教わったんだ。
S; その原住民たちとあなたは生活したのでしょ?
C; うん。「ラカンドンの森」と呼ばれる地域に住んでいるセルバ・ラカンドンと呼ばれる人たちとね。彼らにとても会いたかったし、どうしても会わなければならないという強い気持ちに駆り立てられたんだ。メキシコに着いたらまずユカタン半島で、自分がそれまで学んできたマヤ語が通じるものか試してみたよ。そして実際にすらすら話せるようになった段階で熱帯雨林に足を踏み入れ、ラカンドン族を探した。
S; 森に入る前に彼らと会えるためになにかアレンジしましたか?
C; いや、ぜんぜん。ただジャングルの中へと歩き進んでいった。前もってできたことは、マヤ語の知識だけだった。ラカンドン族の言語はマヤ語に似ている部分が多く、スペイン語を彼らに話しかけるよりも信頼感も違ってくるだろうと思ったからだ。ともかく僕は、ジャングルの奥へ奥へと歩いて行った。実際に彼らに出会うまで2日かかったよ。
「パレンケ」という地名は、ラカンドン族の言葉で「地球のへそ」という意味で、彼らの神話から生まれた。
ジャングルの中を歩き始めた時は、これから何が起こるか予想できないので、僕はとてもワクワクしていた。と同時にちょっとナーバスだったかもしれない。だけどジャングルを歩きながら、木々や植物や動物を見ていたら、なんだかとても落ち着いた気分になってきたんだ。
ラカンドン族の土地に近づいていくにつれて、警戒心やあらゆる思考がストップしている自分を感じられた。あらゆることに対してオープンになれた。
さまざまなシンクロの運びによって彼らと会えたのさ。まず、セスナで彼らの集落に降りていかなかったことは正解だった。次に僕の長髪姿は彼らに安心感を与えた。彼らにとって長髪は、偽りのない人間の姿として見えたのだ。彼らのことわざに、
『髪の毛の短いのは、頭も切り落としたのと同じだから、そんな人間は思考ができん!』
ってあるくらいだ。
とにかく僕は長髪のおかげでずいぶん得した。しかしもちろん、マヤ語が話せたことがいちばんよかった。村のエルダーは、僕が宣教師じゃないってことがすぐに理解できたからね。自分の家に泊まっていいとすぐに言ってくれた。
「僕はジャングルで生活するのを学びたい。僕が住んでいるところは、ジャングルは残っていないからだ」
と、僕はその長老に説明したんだ。そして、彼らが僕を食わせてくれるんなら、なんだってすると、僕は彼らに言った。そのときから僕は彼らのトウモロコシ畑に行ったり、ジャングルで生き延びるためのあらゆることを学び始めた。
S: ハンティングも含まれていますか?
C: もちろんさ。猟はいちばんおもしろかった体験のひとつだった。僕は子供の頃、絶対に銃には一生触れたくないと思ったことがある。戦争は絶対反対だが、しかしジャングルで生き延びるためには狩りは必然的だ。銃や弓矢に直接触れて獲物を殺すというきわめて基本的な体験だった。自分の手で得たものしか食べ物はないんだから。狩猟採集は、腕次第なんだ。とても深い体験ができた。というのも、心理的効果がすごいんだ。狩りを始めてから僕のマインドは完全に変化したよ。
S: ちゃんと猟ができるためには、環境を敏感に把握しないといけないから?
C: そのとおりだ。テレビの画面を通してだけしかジャングルを知らなければ、当然ジャングルには動物がいっぱいいると思うだろう。しかし、実際にはその正反対で、どんな動物もほとんど目に留まらない。虫くらいしかほとんど目につかない。見つけ出す方法を知らなければ、目に入らない。ラカンドンたちは僕に動物を見る方法を教えてくれた。
狩りに何度も連れて行ってくれて、さまざまなことを説明して教えてくれた。動物の気配を感じ取ることを教わった。熱帯雨林についての考え方が完全に変わってしまった。いちばん最初に獲物を得た日のことは、今でもはっきりと覚えている。
オウムを殺したんだ。とはいってもオウムはあの辺りでは比較的よく見かける鳥だけど、とてもうまいんだ! 肉は茶色をしているけど、オウムは果物しか食べないので、甘味があるんだ。
ラカンドンは、オウムは体にとてもいいっていうんだ。食べるとすぐにそのパワーが体中に伝わってくる。彼らと一緒に暮らしているうちに、僕は自分の体がすごく敏感になってきていることに気づいたのだ。
彼らの食生活の基本は、トウモロコシ、豆類、少々の野菜類で、魚やさまざまな昆虫類も日ごろから食している。しかし、動物は彼らにとってとても特別なものものなんだ。毎日食するトウモロコシからは、一定のエネルギーが提供されるが、本当のパワーは、それ以外に付け加えられたものによって供給されると、どんどん感じられるようになっていった。というわけで、肉が無性に食いたくなる。パワフルな食べ物だからなあ。自分が獲物を捕らえたら、みんなで分かち合うんだ。なんてったって、貴重な食料だからなあ。
僕が初めて動物を獲ったとき、自分で生きられるという自信がついたし、それでもっと自由になれたんだ。それでジャングルの生活に馴染むことができたんだ。ジャングルの生態をもっとよく知ることができたのだ。
スーパーに行ったり、レストランに行くだけなら、食べ物に対してなにもリアルに感じられるものはそこにはない。死んでいる植物や死んでいる動物を買うんだから。
その土地で収穫できる食物を集めるということは、もっとも伝統的な行為であり、我々の意識を何千年も前の意識へと戻してくれる。狩猟体験によって、これほどにも意識が変わるとは思ってもみなかった。自分でも驚いたよ。自分の中で古い人間の本能が蘇ってきて、ジャングルでの歩き方まで変わってきたんだ。動物のいる場所がわかるようになった。今まで感知できなかった微妙な音が聞こえるようになったのだ。ジャングルと一体する感覚になったとでもいえるかな。
S: なにかすごく奇妙な狩猟体験をしたって講義で聞かせていただいたのですが、もう少し詳しく教えてください。
C: ああそうだった。あれはちょうど、トウモロコシがほとんど収穫できる時期だった。トウモロコシを狙う獣がいるので、交代で畑を見張らなくてはならなかった。猟には絶好のチャンスでもあった。それで僕も木の上に座って畑を見張っていたんだ。すると4メートルほど離れた枯れ木があって、枝に鳥がとまっていた。
『これは運よく食べ物を授かった』
と思ってその鳥を銃で打ったんだ。その鳥は爆発したように羽がそこら中に舞い散った。その鳥も地面にばたんと落ちたのを見届けたのだが、近づいてみると鳥の死体もなければ、羽一枚も落ちてないんだ。そして、木を見上げると、その木さえないんだ。まったく信じられなかったよ。酒なんか飲んでなかったし。
村に帰ってからエルダーにその話をすると、彼は僕のことを笑ったんだ。これはよく起きることだって。つまり、ジャングルのスピリットの仕業だというのだ。その説明だけで、僕は満足しなければならなかった。
S: 森の中でそのような経験をすると、西洋的な科学と合理的な世界観は崩れてしまうのでは?
C: たしかにそのとおりだ。僕は子供の頃、ドイツの神話なんかに夢中になって育った反面、とても科学的な思考を通して学んだ。熱帯雨林のジャングルでの経験で、くだらん科学は捨ててしまったのさ。現実に対する敏感さが消えないように。それは大きなロスだよ。特に学校で教えられるような一世紀もの間基盤が変わらない科学はなおさらだ。そんな科学を捨てた時からもっと全体性のある世界が開けてきた。
S: ラカンドン族はあなたに種族の秘密や魔法を教えてくれたのですか?
C: もちろん。初めて彼らを訪ねて行ったときは、どんなことを体験するか、まったく予測できなかった。ただ彼らと一緒に生活したいという願望だけだった。それがまるで磁石のように彼らの生き方に魅せられ、数年間一緒に暮らした後、ドイツに戻ったり、また彼らを訪ねたりを何度も繰り返した。ラカンドンは僕を受け入れてくれて、エルダーの用紙として迎え入れてくれた。ドイツに帰ったときは、彼らについての記録をまとめた。とくに彼らの言語に対しては、かなり科学的な研究を行なった。今では彼らの言語をほぼ完ぺきに話すことができる。
S: 彼らの呪文も学ばれましたか?
次回に続く
Posted by 愛知 ソニア at 18:44 │シャーマニズム 2015年04月15日 マヤのラカンドン族 その1 ラカンドン族はまさに今日生きる純粋なマヤの子孫たちです。彼らはメキシコとグアテマラの国境付近の密林に住んでいる原住民たちです。
私は20年近く前に古代マヤのあの有名なパカルヴォタン王のピラミッドがあるユカタン半島のパレンケを訪れました。訪れた理由は、民族植物学会に出席するためでした。パレンケの遺跡近くにある広大なホテルロッジで一週間開催されました。
パレンケの遺跡にあるパカルヴォタンの石棺の蓋
講義をされた先生たちは、アルバート・ホフマン博士、テレンス・マッケナ、アレクサンダー・シュルギン博士、ポール・スタメッツ、クリスチャン・ラッチ博士といったそうそうたるメンバーでした。午前中は、各種民族植物の化学の講義で、午後はパレンケの遺跡で授業がありました。
ある午後クリスチャン・ラッチ博士は、参加者全員をパレンケの遺跡に案内しました。すると遺跡のある場所に真っ黒な長髪で白い衣を着た原住民の人たちが観光客たちに彼らが作った土器の人形やマヤの香を売っていました。ラッチ博士は、原住民たちととても懐かしそうに挨拶を交わしていました。彼らがラカンドン族で、今もジャングルの中に数百人の集落を成して暮らしています。
ラカンドン族の暮らしは、今は昔とでは随分変わったようですが、完全に変化する前にラッチ博士は、三年間彼らと一緒に森の中で暮らした経験があります。
ハンブルグ大学人類学学部の教授であるクリスチャン・ラッチ博士は、アルバート・ホフマン博士の愛弟子でした。彼がラカンドン族とジャングルの中で狩猟生活を三年間も続けていたことを、とても興味深く思ったので、彼にインタビューをして、ラカンドン族の呪術や預言などもたくさん教わった話などを聞かせてもらいました。ラッチ博士は日本にも何度も来られています。その理由をお聞きすると、フグの毒を研究するためだそうです。
「フグの毒でぎりぎり寸前まで何度も行ったよ。 最高さ!」
世の中にはかなり変わった人もいるんですね。
ハンブルグ大学のクリスチャン・ラッチ博士
中でも印象的だった話は、彼らの集落のど真ん中には「神の家」とよばれる神社のような場所があるのですが、彼らはカヌーのような舟に自然に生えている植物や ガマガエルを入れて、おまけに自分たちのツバをその中にいっぱい吐いて、発酵させ、ビールのようなものを作り、その「神の家」(Yaxchilan)で何日も酔っ払う儀式が繰り広げられることです。その神の家には、宇宙の創造主Hachakyumが住んでいると彼らは信じています。男性だけがその神の家でかなりぐてぐてになるまで酔う儀式です。その間に「バルチェ」と呼ばれる松脂のようなものを香として焚き続けます。
バルチェ
クリスチャン・ラッチはマヤ語を勉強した後、ジャングルに歩いて三日間かけて入っていき、やっと彼らの村に着きました。
最初に彼らから習ったことは何か?
それはオウム鳥を矢で射落とすことでした。それをしなければ夕飯にありつけないことをまず、最初に彼は学んだといっていました。しかし、ラカンドン族の生活はラッチ博士がいた頃からすると急速に変わったようです。おみやげ物を売るためにパレンケの遺跡まで彼らは出てくるようになり、今ではトラックや電化製品もある暮らしとなりました。
森が消えていく時、世界の終わりが来るという言葉でスタートする古代の預言をHABOと呼ばれる人々が彼らに残しています。
※ クリスチャン・ラッチ博士へのインタビューは次回掲載する予定です。
Posted by 愛知 ソニア at 21:05 │シャーマニズム